2017年2月14日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 4)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339

今回は税制のおはなし。取っつきづらいところです。


税制と直接的な経済援助

 給付付き勤労所得税額控除(EITC)は、低所得世帯の助けとなる払い戻し可能な連邦政府の税額控除である。EITCは低賃金労働者の雇用を促進し収入を補填することで貧困を取り除く一助となる。2012年時点で、25の州が連邦政府の控除を補填する州独自の控除を設定している。予算・政策優先度研究所の推定では、2011年において連邦政府のEITCにより310万人の子どもが貧困からすくい上げられた。EITCは母子家庭の就労を促進し、基本的な生活必需品に支出できる一助となっていることが示されている。さらなる研究により、EITCが乳児の健康を改善することが示唆されている。1990年代の控除拡大のもとで最も大きいEICTを受け取った世帯を分析すると、このような世帯では低出生体重の割合が低く、早産が少なく、出生前のケアが多いことが分かった。

 小児税額控除は、給与税は納めているが連邦政府の所得税の対象外である可能性のある低所得勤労世帯に租税還付を行う制度である。払い戻し可能なのは一部にとどまるが、このような直接的な現金給付は、2012年では160万人の子どもとその家族がFPL以上の収入を維持する一助となっている。まとめると、EITCと小児税額控除は子ども時代の貧困とその影響を抑える課税政策の代表的なものである。

 貧困家庭一時扶助(TANF)は、目標と時間制限を定めた就労支援、家族支援プログラムに州が出資するための糸筋を連邦政府が提供する一括交付金プログラムである。1996年に制定された個人責任及び就労機会調整法(福祉改革と呼ばれることが多い)は、子育て家庭への扶助(Aid to Families with Dependent Children)に代えてTANFを導入することで、州行政に対する一括交付金を創出し、認定のために労働を要求し、生涯のうち連邦政府からうける支援に上限を設けた。連邦政府の資金水準と、給付を受けることができる時間の上限は変わらなかったので、大恐慌で必要が増したにもかかわらずTANFを受ける世帯数は減少した。貧困、深刻な貧困にいる世帯の数はずっと増え続けているにもかかわらず、1996年以降、国のTANF取扱件数、特に現金給付を受けている数は50%減少し、州の取扱件数の減少割合も25%~80%と様々であった。州が資金の使い道を決める選択の幅には、国家のセーフティネットプログラムとしてのTANFの制限が付いている。

 ここ数十年の収入の停滞は,物価の高騰とあわせて,貧困世帯の経済的不安定性を招いている.最低賃金を上げることで,低収入世帯の何割かは収入がFPLの200%に届くようになり貧困から抜け出せるようになることが示されている.世帯収入を安定化させることで子どもが得られる利益には,全般的なものと個別的なものの両側面がある.経済的安定が意味するのは,住居や移動といった基本的必需品が利用しやすくなり,家族が受けるストレスが減る可能性があるということである.子どもの就学準備と学業成績は,世帯収入に左右される.Brookings Instituteが1999年に行った分析によると,世帯の年間収入がたった1000ドル増えるだけで,算数と読解の成績は統計学的に有意な向上を示す.Panel Study of Economic Dynamicsから得られた1968年から2005年までの人口データの後方視的レビューでは,生年月日と小児早期の世帯収入の2つが,成人後の教育的または経済的到達点と相関していた.この結果からすれば,小児早期の世帯年間収入がたった3000ドル増えるだけで,SATスコアが劇的に向上し,約20%の所得増加で測定される成人労働市場での成功を遂げることになりうる.上記の相関関係は,世帯収入が最も低い群で最も強く,裕福層では統計学的有意差が見られなくなる.

 とりわけ,自立支援の名目で要支援者リストの縮小を目論んだ90年代の福祉改革以降,住民は現金などの給付を得るために労働に従事する必要が増してきた.しかし,若い母親が労働に従事する必要に迫られた結果,幼児を非常に早期から託児所に預けることになるかもしれない.母親にとって解決策はパッチワークにならざるを得ないことが多く,一般の基準に達しない策もなかにはあるだろう.質の高い託児と小児早期の教育は,乳幼児の認知面,社会感情面の発達を促すのにとりわけ重要である.しかし,米国の殆どの地域では託児は住居と同じくらい費用が掛かり,2人の子どもがいる家庭では支出全体の25%を占める.そして幼稚園は大学と同じくらい費用が掛かることもある.多くの勤労世帯が託児費用に対する扶養控除の恩恵を享受している。これにより、認可施設やより高質の環境に子どもを預けることができる。しかし、十分な収入がなく非課税となっている勤労世帯は子どもに対するこのような支援を得ることができない。税額控除は課税前の段階では世帯に払い戻せないからである。ゆえに、最もリスクの高い集団に属し、質の高い小児早期教育をうけたら恩恵を得られるであろう子どもたちのなかに、経済的支援を得られない一群が存在する事になる。