2017年2月21日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 5)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.




いよいよ本丸。具体的なプログラムの説明です。
アウトカムをしっかり評価しているのが素晴らしいですよね。


包括的ヘルスケアへのアクセス

 メディケイド(訳注:貧困世帯対象の公的医療保険),児童医療保険プログラム(CHIP),そして患者保護並びに医療費負担適正化法(訳注:いわゆるオバマケアの中心となる法律)が提供・保護する多くの事項は,もしそのようなものがなければ医療にかかれなかったであろう貧困にいる子どもに大きな利益を与えてきた.貧困で無保険の子どもの割合は,1984年の約29%から70%減り,2013年には8%強になった.2014年の最初の3か月で,その割合はさらに6.6%に下がった.メディケイドかCHIPに登録している子どもは、無保険の子どもより予防医療を受ける割合が高いが、これは保険の範囲が広がったことでどれだけの益があったかを示している。加えて、CHIPは慢性疾患のある子どもの保険対象範囲を9.8%広げ、一般人口における無保険の子どもを6.4%減らしてきた。2009年では、CHIPプログラムは貧困に近医状況にいてプログラムの対象となる子ども全員に、内科的、外科的治療だけでなく歯科治療、メンタルヘルス、薬物乱用対策サービスを含む包括的ケアを受けられるようにした。


小児早期教育

 (早期)ヘッドスタートプログラムは連邦政府の資金で運営されており、年少の子どもがいる低所得世帯のための地域基盤型プログラムである。早期ヘッドスタートプログラムは妊婦と3歳までの乳幼児がいる世帯を対象としており、ヘッドスタートプログラムは3~5歳の就学前の子どもがいる世帯を対象としている。2011年度で、プログラムの対象となった子どもは90万人おり、70億の予算がついている。プログラムでは教育、栄養、健康、社会の各サービスが受けられる。(早期)ヘッドスタートプログラムでは、託児と就学前サービスに加え、妊婦教育、職業訓練と成人教育、住居と保険の獲得支援が受けられる。しかし、早期ヘッドスタートプログラムは現在のところ低所得世帯の約3%しか受けていない。2014年に制定された保育と児童発達の定額補助金法とそれによる予算計上では、託児所にいる子どもの健康と安全を確保するのに必要な新規の対応策に加え、低収入の勤労世帯に対する保育補助金と保育の質向上の資金も確保された。

 小児早期における介入は、人道的観点からも経済的観点からも見返りが大きいことが分かっている。ハイリスクな環境における早期介入が最も見返りが大きい。その理由が養育、刺激、影響を提供することで有毒なストレスの影響を和らげる事にあると考えられている。子どもにとっては、認知機能の向上、自律の向上、あらゆる領域における発達の促進といった利益がある。早くも2005年にはランド研究所が研究を行い、小児早期における介入に1ドル投資すると1.80~17ドルの見返りがあると分かった。就学前(生まれてから5歳まで)教育についてのより新しい研究では、補習のコストの低下、少年法の適用減少に加え、学業成績と就職成績の向上を基に推算して、投資の見返りは1年あたりなんと14%に及ぶとしている。


栄養面での支援

 女性,幼児,小児のための栄養支援プログラム(WIC)は,米国農務省のプログラムで連邦政府の支援を得ている.1974年に低所得の女性,幼児,小児の健康を改善する目的で設立されたことに端を発している.WICは,収入がFRLの185%以下である妊婦や産褥婦,幼児,5歳以下の小児に食料を提供するだけでなく,栄養教育,成長モニタリング,母乳栄養の促進と支援も行っている.

 WICは,妊娠と小児早期における発達のアウトカム向上に一役買っている.米国農務省による一連の報告によると,低所得の女性がWICに参加することで,未熟児の割合と幼児死亡率が減少し,妊婦ケアの参加率が増えた.母乳栄養の促進により,WIC参加者での完全母乳の割合と期間が大きく向上した.乳児期以降についての研究では,WICにより子どもの食事の質が向上し,微量元素の摂取量が増えたことで鉄欠乏性貧血が減少したことが示された.WICに参加している子どもは,同様の境遇だがWIC不参加の子どもと比較し,2歳時の精神発達評価のスコアが高かった.加えて,妊娠時に母親がWICに参加していた子どもは,母親が不参加の子どもと比較して読解能力の評価が高いことも示されている.SNAPは以前フードスタンプと言われていたものであり,低収入の個人,家族に栄養補助を行うために電子カードによる給付を行うものである.他の連邦プログラムと同様,利用可能かどうかは収入,年齢,世帯の大きさ,市民権で決まる.現在,4500万人以上の米国人が毎月SNAPの給付を受けていて,そのなかには約2000万人の子どもが含まれている.SPMでの評価では,SNAPによる恩恵により,再貧困世帯の子どもの貧困率が減少した(SNAPにより2000年とくらべ2009年で4.4%減少した)だけでなく,もっと重要なことに貧困の度合いも下がったのである.

 全国学校給食プログラムは連邦政府の資金によるプログラムであり、無料で朝食や昼食、そして限られた場合であるが夏の間の食事を学齢期の子どもに低コストで提供する。この連邦政府プログラムは、公立学校だけでなく非営利の私立学校にも食事と現金のインセンティブを与える。
提供される食事は米国人のための食生活指針に準じている。2012年では、毎日3160万人の子どもに低コストで無料の昼食が届き、コスト総額は116億ドルであった。FPLの130%以下の収入である世帯の学童は無料の食事を受けることができ、185%以下だと値引きした食事を受けることができる。最近の分析では、このようなガイドラインを用いることで、全国の公立学校の生徒の半数以上が無料あるいは値引きの食事を受けることが出来ると推定されている。

 WICやSNAPといった栄養面での支援は低栄養を対象としているが,肥満のような別の形態の栄養不良にも補助的プログラムが有効である.たとえば,就学前の子どもについての最近の研究では,ヘッドスタートプログラムに参加した子どもは連邦の助成金による食料の給付を受けていない子どもより入学時点でBMIが健康的であった.


訪問事業

 母子訪問事業(MIECHV)プログラムは医療費負担適正化法の一環として2010年に設立された.これにより,連邦政府,州,地方政府は高リスクの子どもに対する確立された訪問プログラムを実施する援助を受けることができる.MIECHVの目標は明確であり,母体と新生児の健康を改善することである.つまり,子どものけが,虐待,ネグレクト,栄養失調を予防し,救急受診を減らし,就学準備と学業成績を改善し,犯罪や家庭内暴力を減らし,世帯の経済的自立を促し,他のコミュニティの資源や支援の調整と紹介を活用することである.

 MIECHVは妊婦と5歳以下の子どもがいる世帯を対象とした介入のうちエビデンスに基づいた19のものを同定してきた.うまくいくエビデンスのあるMIECHVプログラムの1例として看護師―家族パートナーシップがある.まず低収入の母親が妊娠中に登録され,第2トリメスターの初期に妥当性の確認されたカリキュラムで訓練された看護した週一回その家を訪問する.高リスクの母親に対しての利害の比率は5.68:1と算出されている.