今月号のCanadian Family Physicianで、
Canadian Consensus Conferences on the Diagnosis and Treatment of Dementia (CCCDTD)が昨年出したrecommendationが解説されていました。
認知症は本当によく出会うので、知識をアップデートしておきましょう。
【血管型認知症について】
・CTよりMRIを取りましょう
(筆者コメント:全例MRI評価は厳しいなぁ。すぐに診療に取り入れるのは憚られてしまいます…)
・高血圧の治療はちゃんとしましょう。認知症のリスクを減らす可能性があります。
・血管性認知症を疑う場合、dBP 90mmHg以上、sBP 140mmHg以上なら降圧しましょう。ただし、sBP 120未満は逆効果です。
(高齢者でsBP 70以下には下げないよう気を付けていましたが、sBP 120以下もよろしくなさそうですね。)
・アスピリンの使用は、脳卒中や脳梗塞の病歴のない、血管起源と推定される隠れた白質病変の画像上の証拠がある軽度認知障害または認知症の患者には推奨しません。隠れた脳梗塞が検出には、アスピリンの効果は不明です。
(ここが注意。CFPでは「アスピリンを推奨する」と書かれていたが、原文では「使ってもいいけど効果はよくわからない」というニュアンスなのでしょうか。Grade 2Cですし、この推奨文をもって、いわゆる「隠れ脳梗塞」がある認知症/軽度認知障害患者にはアスピリンを使いましょう、となるのは早計かと思います)
【スクリーニング】
・基本的にスクリーニングは推奨されない。
・潜在的な症状に注意を払うべし。薬剤服用が困難、セルフケアの減少、詐欺にあう、抑うつや不安などがあれば、ちゃんと評価しましょう。
・(a)脳卒中/(TIA)の既往(b)うつの既往 (c)未治療の睡眠時無呼吸;(d)コントロール不良な代謝性疾患、心血管疾患(e)せん妄の最近のエピソード(f)高齢での精神科的症状 (g)最近の頭部外傷(h)パーキンソン病がある場合には、患者・家族・関係者に認知面について質問し、懸念がある場合はさらなる評価に進みましょう。
(日本だとHDS-Rでしょうか。Mini Cogとかもいいですよね。私はHDS-R+時計描画+狐の手・鳩の手模倣をしてもらっています。)
・家族/介護者が評価するAD-8(日本語版はこちら)、機能を見るDisability Assessment for Dementia(日本語版あるようですが探せませんでした…)といった評価ツールもあります
・高齢者にはCGAしましょうね。
・画像検査はCT+MRI。
(MRIでの細かな評価は…かなり専門的なようです。)
【認知機能以外の評価】
・歩行速度の低下は認知症と強い相関あります
(私はtimed up and go testをしています)
・パーキンソニズムがあると認知症発症率3倍になります。
・フレイルは将来の認知症発症の祥のマーカーになる。
(現時点では、高度なイメージングやバイオマーカーより、歩行速度とフレイル、ということのようです)
・睡眠衛生は必ず聞く。特にREM睡眠障害と睡眠時無呼吸に注意。
・聴覚障害は認知症の発症と関連しています。聴力を評価しましょう。
・視覚障害が認知症発祥と関連しているという十分なエビデンスはありませんが、視力改善は認知機能を改善させる可能性があります。
【リスク軽減】
・地中海式食事、果物や野菜の摂取を励行しましょう。飽和酸ではなく不飽和脂肪酸をとりましょう。
・中等度以上の身体活動(有酸素運動、筋トレなど)をしましょう。太極拳いいですよ。
(私の勤めている病院の併設ジムでも太極拳のコースがあります)
・聴覚は大事です。聴覚検査+耳鏡検査をして、耳毒性の可能性がある薬剤をレビューして、慢性中耳炎などあれば耳鼻科に紹介しましょう。補聴器も大事です。
(難聴についてはこちら)
・SASがあればCPAPを。
・頭を動かす娯楽、ボランティア、生涯学習など、なんでもいいのでいろいろな活動をしましょう。
・貧困に立ち向かうことは認知症に立ち向かうことになります。社会的な状況をサポートしましょう。
・幼少期だけでなく生涯にわたる学習の機会を支援しましょう。
・フレイルに介入しましょう。
・抗コリン薬はできるだけやめましょう。
・コミュニティレベルでの介入をしましょう。
【抗認知症薬】
・コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗剤の適応は、アルツハイマー病、パーキンソン病による認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症のみです。軽度認知障害には処方しないでください。
・コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗剤を12か月以上服用していて、次の場合に当てはまれば中止を検討しましょう
ー他の要因がないのに、過去6か月間で臨床的に意味のある認知症の悪化がある
ー臨床的な効果がない
ー重度または末期の認知症
-副作用(重度の悪心、嘔吐、体重減少、食欲不振、転倒など)
-服薬アドヒアランスが不十分で、安全な継続または有効性評価ができない
・中止する際は、4週間ごとに50%ずつ減らしましょう。減薬で明らかに症状が悪化したら再開しましょう。
・精神病症状、興奮、攻撃性の見られる患者では、むやみな中断や止めましょう。症状が落ち着いても続けておいた方がいいでしょう。
以上、ざっくりまとめたつもりが長くなりました。
こうやってみると、推奨が幅広い分野にわたっていますね。
家庭医の腕の見せ所だと思います。