2022年8月18日木曜日

多疾患併存患者との共同意思決定を阻害する法的リスクへの不安


Brown EL, Poltawski L, Pitchforth E, Richards SH, Campbell JL, Butterworth JE. Shared decision making between older people with multimorbidity and GPs: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2022 Jul 28;72(721):e609-e618. doi: 10.3399/BJGP.2021.0529. PMID: 35379603; PMCID: PMC8999685.


英国のGP診療所において、多疾患併存高齢者のShared Desicion Making (SDM)に影響を及ぼす要因を、患者と医師の両側から調べた質的研究です。


65歳医所の多疾患併存高齢者を集めたfocus groupを2つ、GPを集めたfocus groupを2つ作り、インタビュー内容を帰納的テーマ分析しています。


この分析結果がべらぼうに面白いので、この論文を紹介しようと思ったわけです。

(結果を単純化してやや誇張して書いていますので、詳細は原文をご覧ください)


とくに英国のGPは、診療ガイドラインに即した診療を行うよう求められる状況にいると理解していますが、多疾患併存高齢者では、各疾患の診療ガイドラインをそのまま実行するのが必ずしも最適ではない、ということはかなり周知されていると思います。

ただ、医師としては、診療ガイドラインに即していない診療をすることで、法的なリスクを背負う可能性があるのではないか、と不安になります。この論文ではmedicolegal vulnerabilityと表現されています。訴えられたら負けるのでは、というわけですね。


そりゃあ、診療ガイドライン通りにしないと訴えられると思っている医師と、医師がそうやっておびえていることを認識している患者との間で、個別性を踏まえたSDMは起こらないですよね。


筆者たちは、このようにSDMが阻害されていることに対する対応策として、まず医師がこの分野でSDMがうまくできていないということを認識したうえで、不確実性を扱うための教育と、miltirmodityに関する診療ガイドラインの普及が重要であるとしています。この議論は納得がいくところです。


自分の診療をふりかえると、この患者はtreatment burdenが大きすぎるから、この治療は控えた方がいいのだろうけど、その結果、心配している事象がおきたらどうしよう、その可能性は相対的に低いけど、万一のことがあったら非難されるかも、と考えてしまうことは結構あるなと思います。

患者とのコミュニケーションの質をあげるために、このような阻害要因を認識しておくことは、とても大事なことだと思います。