2015年3月19日木曜日

NEJM Case9-2015



今週のNEJM Case Recordです。
本文はこちら

Case 9-2015
A 31-Year-Old Man with Personality Changes and Progressive Neurologic Decline

【患者】19年前に交通事故で頭部外傷を負った31歳男性
【主訴】人格の変化、進行する神経学的障害

3年前から、音楽をずっと聞いたり、訳わからん買い物をしたり、吐くまで酒やたばこをしたり、人づきあいが亡くなったりという人格変化が始まった。生まれた子のミルクをうまく作れなかったりもした。

CTは以下の通り。前頭部の軟化は19年前の交通事故によるものだろう。しかしそれ以外のところも萎縮や異常信号がある。
とりあえずうつという診断で薬剤開始していたが効果なし。



1年前から意思疎通できず、時に失禁。いまは歩行、食事もできない。
診察では、命令に従うことができない、仮面顔貌あり。眼球運動は正常、指鼻試験も正常。
筋量減少あり、線維束攣縮なし。四肢筋緊張亢進し歯車様硬縮あり、ミオクローヌス時にあり、両側把握反射↑

薬剤:トラゾドン、ベンズトロピン、ヒドロキシジン、オメプラゾール、ハロペリドール


さーて、なんでしょうかねー。
3年の経過で進行した人格障害、神経機能障害ですね。
感染症(梅毒、HIV、ウイルス脳炎など)、金属中毒、神経変性疾患、自己免疫疾患などが鑑別だと私は考えました。漠然としすぎていますが。
treatable dementiaの検査(ビタミン、甲状腺など)はすべきだと思います。何か見つかる気はしませんが。

dementiaをみる場合、最初の症状に注目すべしとありました。
たとえばアルツハイマー病では、脳の後方がまず障害されるため、覚えられない、ことばが出ないといった症状がまず出ます。
本ケースでは、精神病的症状がまず出ています。非優位半球の頭頂葉、島皮質、眼窩前頭皮質の障害が考えられます。


急速進行の認知症(rapidly progressive dementia)の鑑別が載っていました。
CJD、ウイルス脳炎、中枢神経限局性血管炎(PCNSV: primary central nervous system vasculitis)、傍腫瘍症候群、自己免疫性脳症

傍腫瘍症候群による中枢神経症状といえば
肺小細胞がんなどによる辺縁系脳炎、卵巣腫瘍による抗NMDAR脳炎、あとはstiff-person症候群などが思いつきます。
意識していないと傍腫瘍症候群という鑑別は出てきにくいですね。

PCNSV(primary central nervous system vasculitis)は初めて知りました。
PACNS(primary angiitis of the central nervous system)ともいうらしいです。
以下、UpToDateJAMA Neurologyの総説を基に記載します。

PCNSVは脳の小~中血管を侵し、雷鳴頭痛や人格障害、意識レベル変化などを起こします。
脳脊髄液は正常所見で、画像も非特異的な変化であることが多いため、診断のため脳生検をすることもあるみたいです。
血管攣縮を起こす何らかの原因(妊娠、偏頭痛、薬剤)を探る必要があります。
治療はステロイドとシクロフォスファミドの併用です。骨粗鬆症とPCPの予防をする必要があります。

主な鑑別疾患はRCVS(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)です。
雷鳴頭痛が数日~数週間周期におき、同時に神経所見も呈することがあります。
この場合、シクロフォスファミドのような細胞毒性の強い薬剤を使う必要はないので、しっかり鑑別する必要があります。



結局、一番可能性が高いのは前頭側頭型認知症(FD)だろう、だそうです。
えー!28歳初発のFDなんてあるのー!と思いましたが、読み進めてみると色んな発見が。

まず、FD一般について。
・発症は60歳代が多いが、60歳以下の認知症で最も多い原因でもある。
・精神病的症状で初発が多い。
・10-15%でAD遺伝が見られる。

・左半球が障害→失語症がメイン
・右半球が障害→精神病的症状がメイン(behavioral variant)

・behavioral variantの主症状は6つ(本ケースでは5つ当てはまっている)
 脱抑制、無感動、同情や共感の欠落、反復行動、口唇傾向(hyperorality:何でも口に入れる状態)、実行能力の欠落


FDは3つのサブタイプに分かれるそうです。初めて知りました。

①tauサブタイプ
いわゆるPick病。50-70歳代が初発で、認知症がゆっくり進行していきます。家族性は稀で、パーキンソニズムを呈することがありますがALSとの関連はほぼ間違いなくありません。

②TDP43サブタイプ
70歳前半で初発が多く、behavioral variant + ALSとなることが多い。年齢を除けば本ケースの特徴と一致する。

③FUSサブタイプ
もっとも稀なタイプ。初発は30-40歳代で、behavioral variant + ALSとなることが多い。病歴からは最も可能性が高い。



剖検も踏まえての最終診断は以下の通り。
Frontotemporal lobar degeneration with tau-positive inclusions (Pick’s disease subtype) due to a Gly389Arg MAPT mutation, resulting in the behavioral variant of frontotemporal dementia with parkinsonism


というわけで、28歳初発の前頭側頭型認知症のケースでした。


~Clinical Pearls~

・認知症は初発症状に注目する。

・rapidly progressive dementia:CJD、ウイルス脳炎、PCNSV、傍腫瘍症候群、自己免疫性脳症

・前頭側頭型認知症は、失語症がメインの型と行動障害がメインの型がある。

・behavioral variant:脱抑制、無感動、同情や共感の欠落、反復行動、口唇傾向、実行能力の欠落