2015年3月5日木曜日
全身の搔痒(NEJM Clinical Problem-Solving)
今週のNEJMに載っている、Clinical Problem-Solvingです。
いつものごとくさらっとまとめます。本文はこちら。
【患者】58歳女性
【主訴】2週間つづく全身の搔痒
3週前に軽い感冒用症状があった。
2週前より全身がかゆく、どんどん悪化している。皮疹はない。
食欲もなく、疲れやふらつきも感じる。
慢性副鼻腔炎に対してステロイド点鼻と、カルシウムとビタミンDを内服中。
身体診察上は特に異常なし。
皮疹のない全身搔痒なので、全身性の疾患を考えます。
私の鑑別は、胆汁酸鬱滞(黄疸)、腎障害、薬剤、骨髄増殖性疾患、悪性腫瘍、(妊娠)でした。
この記事によれば、さらにHIV感染と甲状腺機能亢進症が鑑別に上がるようです。
骨髄増殖性疾患は具体的にはPV(真性多血症:polycythemia vera)やET(本態性血小板血症:essential thrombocythemia)を想起しました。
その場合、入浴などで温まると痒くなる、が典型例だと思います。
CMLでも好塩基球がヒスタミンを放出して搔痒が生じると思います。
悪性腫瘍は、リンパ腫や白血病の他に、気管支癌で全身搔痒が出やすいという記述をどこかでみました。
全身搔痒を引き起こす薬剤はあるのでしょうか。一応鑑別にはあげましたが。
調べてみると、オピオイドやイナビルをはじめ、結構あるみたいです。
肝障害や腎障害を引き起こして搔痒、という経路も考えられます。
血液検査です。
Na 129, K 4.9, Cl 93, HCO3 25, BUN 121, Cre 10.6, Glu 114, Ca 7.6, T.Bil 0.2, T.P 6.1, Alb 2.4
WBC 14200(Seg 47%, mono 14%, Lym 37%, Eos 0%), Ht 38%, plt 144000, 胸部Xp 異常なし
1か月前の血液検査では異常がなかったようです。
BUNとCreがとんでもないことになってますね。
全身搔痒の原因は腎障害ということでいいでしょう。たぶん尿毒症になってます。
さっそく、腎障害の鑑別をすすめていきます。
尿量変化なし。血尿1+、蛋白尿3+。RBCは変形していない。脂肪円柱あり。FENa 12%。エコーで両側腎やや腫大。その後の検査で尿蛋白22g/day(!)。
腎性の腎不全です。ネフローゼ症候群の基準を満たすかなと思ったら案の定そうでした。
脂肪円柱があるので糸球体疾患でしょう。
ただ、変形赤血球や赤血球円柱がないので腎炎とはいえないとのことです。
ネフローゼ症候群の半分は続発性のもので、糖尿病やSLE、感染後などが多いそうです。
NSAIDsなど腎障害(急性尿細管壊死)を引き起こす薬剤は飲んでいないようです。
腎の腫大は急性を意味します。慢性腎不全だと腎は縮小します。
膠原病の各検査は異常なし。ASO陽性で咽頭培養から溶連菌が出てきました。
こういわれると、私はすぐに急性糸球体腎炎に飛びつきたくなるのですが、先述の通り腎炎は考えにくいのだそうです。そんなものなのでしょうか。
溶連菌感染後に急性腎障害とネフローゼ症候群を引き起こした58歳女性
この疾患スクリプトにピッタリくる疾患として、collapsing glomerulopathyが挙げられていました。
…なにそれ?初見です。
HIV感染後に発症するためHIV関連腎症といわれていましたが、HIV感染がなくても起こることが分かって今の名前になったみたいです。
巣状糸球体硬化症の一亜型という扱いですが、独立した疾患にしようという動きもあるとのこと。
特徴はCre著明高値と大量の蛋白尿です。
腎炎を示唆する尿所見がないことも診断を支持します。
この患者さんでは生検で確定診断となりました。
続発性collapsing glomerulopathyの原因は以下の通りです。
HIV
他の感染(パルボ、CMV, HCVなど)
薬剤(ビス、IFNα、バルブロ酸など)
自己免疫疾患(SLEなど)、
TTP/HUS(thrombotic microangiopathyという)
血液疾患(血液貪食症候群など)
…
予後は不良。治療はステロイドや免疫抑制薬などですが効果はまちまちだそうです。
というわけで、全身搔痒を主訴にやってきた急性腎障害の症例でした。
~Clinical Pearls~
全身搔痒の鑑別は、胆汁酸鬱滞(黄疸)、腎障害、薬剤、HIV感染、甲状腺機能亢進症、骨髄増殖性疾患、悪性腫瘍、妊娠。
腎炎では破砕赤血球や赤血球円柱がみられる。
大量の蛋白尿とCre異常高値を呈する急速進行の腎障害をみたらcollapsing glomerulopathyを疑う。