2015年5月1日金曜日
NEJM Case14-2015
NEJM Case Recordです。
今週は議論が込み合っていて、すっきりとした結論が出ているわけではないのですが
「目に見えているものだけが真実とは限らない」という感じでエキサイティングでした。
Case 14-2015 — A 58-Year-Old Woman with Shortness of Breath
【患者】ジョギングが日課である58歳女性
【主訴】8か月前から進行する息切れ
8か月前にジョギング時の息切れを自覚。症状はどんどん進行し、階段を上っただけでも息切れが出るように。足のだるさもでてきた。喘息治療は効果なし。心エコー正常。Dダイマー正常。
陰性所見:起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、wheezing、浮腫、咳嗽、喀痰、発赤、悪寒、頬部圧迫感、同期、便変化、排尿症状、チアノーゼ、ばち指、リンパ節腫大
既往:骨粗鬆症、偏頭痛、脂質異常症、季節性アレルギー、軽度AST・ALT高値、乳腺石灰化
薬剤:アレンドロネート、シムバスタチン、ロラゼパム
生活:アルコールなし、30年前に禁煙(3年間のみ喫煙)
%FVC 101%, %FEV1 97%, FEV1/FVC 0.76, %TLC 97%, %DLco 92%
AST 56, ALT 60, ANA (+; 1:40), RF(-), ANCA(-), その他血液検査異常なし
CTは以下の通り。
プロブレムリストは以下の通り。
#進行性の重篤な労作時呼吸困難
#両側上肺野中心に結節(数個)と胸膜肥厚(葉間裂にわたる)
#下肢のだるさ
そしてとても大事なことが…
#症状の割に
・画像所見が派手じゃない
・呼吸機能検査に異常がない
・労作時呼吸困難以外の呼吸器症状がない
私が最初読んだときは、この「症状との乖離」に気づくことができませんでした。
最終診断を下すよりよっぽど大事なことだと思います。
肺野に多発結節があるときの3大鑑別診断は、感染症、癌、血管炎です。
感染症は、結核や真菌症(ヒストプラズマとか)が挙がりますが、咳嗽や発熱がなかったり期間が長すぎたりと、合わない点が多いです。
癌の多発転移だと、普通は下肺野中心です。
血管炎だとしても、発熱や手足のしびれ、腎障害といった他の症状に乏しいです。
というわけで、どうもこの結節は間質性の変化みたいです。
肺間質の疾患は、サルコイドーシス、過敏性肺臓炎、肺ランゲルハンス細胞組織球症、塵肺症などが挙げられます。
特定の物質の曝露歴はありませんし、喫煙者ではないため肺ランゲルハンス細胞組織球症も否定的です。ただし、サルコイドーシスを完全に除外することはできません。
画像的に本例と合致する疾患は以下の通り。
特発性器質化肺炎(COP)
慢性好酸球性肺炎
膠原病関連間質性肺疾患(膠原病の全身症状が出る前に間質性肺疾患が出ることがある)
ここで、初めに述べた「症状との乖離」についてもう一度考えてみます。
もしこの患者に画像的な異常がなかったらと考えると、
呼吸困難は呼吸器によるものではなく、呼吸筋によるものではないか、
下腿のだるさと、薬剤歴を踏まえると
スタチンによるミオパチーが挙がってきます。
スタチンが間質性肺疾患を引き起こすことも、非常に稀ながらあるみたいでして、
いよいよこれで決まりか、と思ってしまいますが、
実際は、スタチンは数週間前に始まったばかりであるとのこと。あらら。
生検の結果、特発性のpleuroparenchymal fibroelastosis (PPFE)との診断が下されました。
くだんの「症状との乖離」ですが、
・腰痛があり、歩きにくいのはそのせいと考えることもできる
・子どもが7年前に頭部外傷による障害を負い、それがストレスになっている
・強く症状を訴えているが、いまでも7kmのジョギングをこなすことができる
ということがさらなる医療面接で明らかとなりました。
最終診断こそマニアックですが
診断をしていく上で非常に大切な事項が盛りだくさんでした。
~Clinical Pearls~
・目に見えるものだけが真実とは限らない
・「症状と検査との乖離」に気づく。「検査値正常」はときに異常である。
・心惹かれる所見に出会ったら、本当にそれで全てが説明できるか考える。
・患者の訴えは、overestimateもunderestimateも避けるべし。