2015年4月10日金曜日

慢性下痢と腰痛(NEJM interactive medical case)



NEJM interactive medical caseをまとめてみます。
選択肢をぽちぽち押しながら読み進めていくので楽しいです。本文はこちら


A Man with Diarrhea and Back Pain

患者は43歳男性。6週前より腹痛と下痢がある。
初めは食事時に上腹部が痛むだけだったが、次第に、いつも腹部全体が痛いようになった。
切迫感(+)、しぶり腹(+)。
便は黒く、鮮血はまじっていない。油っぽくはない。悪臭なし。トイレで流れにくくもない。
ここ1カ月で14kg減少だが食欲低下はない。
発熱、胸痛、咳嗽、息切れ、嘔気嘔吐、尿量減少、口腔内潰瘍、皮疹いずれもなし。


下痢は4週間以上続くと慢性と定義されます。
機能性、炎症性、浸透圧性、分泌性、脂肪性という区分を覚えましょう。

機能性ではないと考えるポイントは、5kg以上の体重減少、夜間就寝中の下痢、消化管出血、貧血、低アルブミン、炎症マーカー上昇です。

それぞれの特徴は以下の通り
炎症性:下血+全身症状(腹痛、発熱など)
分泌性:空腹時でも起こる、夜にも起こる
浸透圧性:空腹時は下痢が止まる
脂肪性:油っぽい、悪臭、便器から流れにくい


下痢とは別に、20年前より腰痛があります。最近、毎朝一時間以上続く頸部の疼痛とこわばりがでてきました。また3年前にブドウ膜炎と尿路結石発作を起こしています。

ここまでで最も考えられるのは、炎症性腸疾患(IBD)とそれに合併した脊椎関節炎です。
IBD患者の20%で炎症性関節炎が合併します。

IBD関連の末梢の関節炎はタイプⅠとⅡがあるそうです。
タイプⅠ:5箇所以下、大関節、病勢と関連あり、
タイプⅡ:多関節炎、左右対称、主に上肢、病勢と関連薄い


現症はとばします。興味があれば本文を参照ください。

45歳以下、緩徐に発症、経過3か月以上、朝のこわばりあり、運動で改善などは、炎症性腰痛を示唆する所見です。やはり脊椎関節炎がこの患者では疑わしいです。

最大の鑑別は、びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)です。
靭帯の骨への付着部が石灰化して、ときに背部痛を生じる疾患です。
なぜか糖尿病や肥満の人に多く発症します。
脊椎の可動域が狭く、かつ付着部に圧痛があると、本症が疑わしくなります。
発症が高齢、炎症所見がない、仙腸関節炎がない、などが鑑別のポイントでしょうか。


結局、画像検査その他で潰瘍性大腸炎の診断となりました。

IBD患者はシュウ酸カルシウム結石になりやすいです。シュウ酸の摂取は控え、カルシウムをたくさん摂取しましょう。カルシウム制限は逆に結石を引き起こすので注意です。
IBDは腸外病変が多いです。同じ号のNEJMに、IBDに合併するがんについてのレビューがありました。


軽度-中等度の潰瘍性大腸炎の寛解には、ステロイドとASAを用います。
3-5日以内に症状が改善しなければ、TNFα阻害薬を使うことになりますが、その前に結核とHBVの検査をして、インフルエンザと肺炎球菌のワクチンを打ちましょう


~Clinical Pearls~

・4週間以上続く下痢は慢性である

・機能性ではないかも:5kg以上の体重減少、夜間就寝中の下痢、消化管出血、貧血、低アルブミン、炎症マーカー上昇

・IBDは腸外病変が多い。全身くまなく診察するべき。尿路結石の既往も大事

・TNFα阻害薬を使う前に、結核とHBVの検査をして、インフルエンザと肺炎球菌のワクチンを打つ