2015年4月15日水曜日

64歳女性:下痢と腹部膨満(Mayo Residents' Clinic)


4月号のMayo Clinic Proceedings Residents' Clinicです。
なぜか3月号が見れません。どうしてでしょうか。

4月のResidents' Clinicは2つ記事がありますが、1つは嚢胞性線維症が題材で、日本にはまず見ない疾患だったので本ブログでは紹介しません。


64-Year-Old Woman With Diarrhea and Increased Abdominal Girth


64歳女性が、1か月前からの食後の水溶性下痢と、腹回りが大きくなってきたことを主訴に来院しました。
血圧136/83、心拍96、SpO2 95%r/a、呼吸数18、体温36.9℃です。どうやら腹水がたまっている様子。

新規発症の腹水をみたら、いの一番に特発性細菌性腹膜炎(SBP)を除外しなくてはいけないそうです。腹水をとって、好中球>250/uLか培養(+)だとSBPの診断になり、抗菌薬治療開始です。
また、血清Albと腹水Albの差が1.1g/dL以上だと、門脈圧亢進を疑うそうです。

本例では、腹水所見によりSBPは除外、門脈圧亢進が疑われました。
血液検査では、Hb 9.8, MCV 100.3, WBC 18600, Plt 11.8万, INR 1.4。
また、ALP 589で、T.Bil, AST, ALT, Albは正常値。
画像検査では腹水、肝左葉腫大、臍静脈開大、脾腫がありましたが胆道は正常。
骨、とくに椎体にびまん性の硬化がありました。

ウイルスや自己免疫性肝炎などで肝細胞がやられるとAST,ALTがより上がるはずです。
NASHでは、AST,ALTは上昇したとして正常最大値の2倍から5倍、ALPもせいぜい最大値の2から3倍にとどまります。アルコール性ではAST>ALTです。

本例のようにALPが著明に高値であれば、胆汁鬱滞を考えます
原因は肝内性と肝外性に大別できます。
各種血清学的検査では異常は見つからず。心エコーで肝心症候群は否定的。
というわけで生検を施行。
肝臓と消化管を巻き込んだ全身性肥満細胞症の診断となりました。

全身性肥満細胞症では~49%の患者にアナフィラキシーが起きます。
なので、本性を診断したらすぐに抗ヒスタミン薬を処方する必要があります。
腹水については利尿薬でコントロールします。


というわけで、全身性肥満細胞症による肝障害→腹水と消化管障害→下痢というケースでした。
下痢は全身性肥満細胞症の34%で見られる症状みたいです。

最後に、全身性肥満細胞症の皮膚以外の症状をまとめておきます。(UpToDateを参照)

・消化管(嘔気嘔吐、慢性下痢、潰瘍など)
・筋骨格系(筋痛、骨痛など)
・循環器(血管拡張→低血圧、頻脈)
・リンパ系(脾腫、リンパ節腫大)
・骨髄(貧血、血小板低下、好酸球増加など)
・神経系(うつ、気分変化など)


~Clinical Pearls~

・新規発症の腹水をみたら、いの一番に特発性細菌性腹膜炎(SBP)を除外!

・ALPが500以上なら胆汁鬱滞をまず考える。

・全身性肥満細胞症は、肝障害→浮腫の原因となりうる。