2021年6月13日日曜日

高齢者の血圧治療のdeintensification

 Aubert, CE, Ha, J-K, Kim, HM, et al. Clinical outcomes of modifying hypertension treatment intensity in older adults treated to low blood pressure. J Am Geriatr Soc. 2021; 1– 11. https://doi.org/10.1111/jgs.17295


背景・目的

高血圧治療は心血管イベントを減少させる。しかし、高齢のmultimorbidity患者において収縮期血圧(SBP)が厳格にコントロールされている場合、降圧薬の減薬またはさらなる増量の有益性と有害性については、臨床試験で除外されることが多いため、不確実性が残っている。我々は、SBPがしっかりとコントロールされている高齢者において、高血圧治療のdeintensificationとintensificationと臨床転帰との関連を評価した。


デザイン

縦断的コホート研究(2011~2013年)で,9か月間の追跡調査を行った。


セッティング

米国の退役軍人健康管理局の全国規模のプライマリケア医療システム。


対象者

65歳以上の退役軍人で,ベースラインSBPが130mmHg未満で,2回以上の連続した受診時に1種類以上の降圧薬を服用していた人(N = 228,753人)。


曝露

安定した治療と比較して、deintensificationまたはintensification。


主な結果と評価

曝露後9カ月以内に発生した心血管イベント,失神,転倒による外傷を複合的かつ個別のアウトカムとした。調整済みロジスティック回帰および治療の逆確率による重み付け(IPTW,感度分析)を行った。


結果

228,753人の患者(平均年齢75[SD 7.5]歳)のうち、複合アウトカムは、安定した治療を受けていた群で11,982/93,793人(12.8%)、deintensification群で14,768/72,672人(20.3%)、intensification群で11,821/62,288人(19.0%)であった。調整後の転帰リスクの絶対値(95%信頼区間)は、安定した治療(14.8%[14.6%~15.0%])と比較して、deintensification(18.3%[18.1%~18.6%])およびintensification(18.7%[18.4%~19.0%])で高かった(多変量モデルではいずれの効果もp<0.001)。deintensificationはintensificationよりも心血管イベントの減少と関連していた。ベースラインSBPが95mmHg未満の場合、心血管イベントリスクは強化解除と安定治療で同等であり、転倒リスクは強化解除の方が低かった。IPTWでも同様の結果が得られた。フォローアップ時の平均SBPは、安定期治療で124.1mmHg、deintensification治療で125.1mmHg(p<0.001)、intensification治療で124.0mmHg(p<0.001)であった。


結論

SBPを厳しくコントロールしている高齢者の降圧治療のdeintensificationは,同じ治療強度を継続するよりも悪い転帰と関連していた。治療を変更した患者の方が死亡率が高いことから,適応による交絡が,観察データ解析のための高度な統計手法では十分に補正されなかった可能性がある。


感想

結論だけ拾えば,安定して厳密に管理されている65歳以上の高齢者(平均75歳,ほとんど男性)では,sBPが120台程度であっても治療強度を緩めない方が良い,ということになりますが,文中にもある通り治療強度を緩めた群でも強めた群でもアウトカムが悪くなっているので,何らかの原因があって治療を変えざるを得なかったという要因が十分に補正できていないかもしれない,ということになりますね.

私は,診察室に元気に入ってくる高齢者は80歳であっても投薬で安定してsBP 120台ならdeintensificationしないですが,フレイルなら少し弱めてsBP 140台を目標にしています.bedriddenであったり,予後が数年以内と予測される患者であったりすれば,心不全など有害事象がない限りは血圧は問わないようにしています.