2021年5月12日水曜日

退院時のケアプラン策定を促す医療政策は再入院の予防に寄与するか

 Staples, J.A., Liu, G., Brubacher, J.R. et al. Physician Financial Incentives to Reduce Unplanned Hospital Readmissions: an Interrupted Time Series Analysis. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06803-8


背景

2012年、カナダのブリティッシュ・コロンビア州保健省は、病院の医師が複雑な患者の退院時に退院後のケアプランを書面で作成した場合、75ドルの報奨金を請求できる制度を導入した。


目的

退院計画の強化を奨励するための医師の金銭的報酬が、その後の予定外の病院再入院を減少させるかどうかを検討する。


デザイン

母集団ベースの入院データの時系列解析。


対象者

2007年から2017年の間にブリティッシュコロンビア州で発生した1回以上の組み入れ基準に該当する入院をした個人。


主要評価項目

11年間の研究期間中に、30日以内に予定外の再入院をした指標となる退院の割合を月ごとに測定した。報奨金政策導入後に再入院リスクが変化したかどうかを調べるため、interrupted time series analysisを行った。


主な結果

409,289件の指標となる入院のうち、計40,588件の予定外の再入院が発生した(30日以内の再入院リスクは9.92%)。政策導入は,月次再入院リスクの有意なステップ変化(0.393%;95CI, - 0.190~0.975%;p = 0.182)またはトレンドの変化(p = 0.317)とは関連しなかった。政策の導入は、高齢者における潜在的に不適切な薬剤の処方の有意な減少と関連していたが、心血管疾患による入院後のβ遮断薬の処方には改善がみられず、30日死亡率にも変化はなかった。奨励金の導入は不完全で、政策導入後の最初の1年間と最後の1年間で、対象となる入院の6.4%から23.5%まで上昇した。


結論

医師に対する報奨金の導入は,病院の再入院率の有意な変化とは関連していなかったが,これはおそらく,医師による報奨金の受け取りが不完全であったことが一因であると考えられる.政策立案者は,他の地域で同様の介入を計画する際に,これらの結果を考慮すべきである。


感想

これはとても面白いというか,こんな研究してみたいなという論文です.題材はよくある制度で,complexな患者が退院する時にケアプランを策定すればそれに点数がつくというもの.それが有効に機能しているかを確かめるため,10年間のビッグデータを集め,interrupted time series analysisで解析しています.これはアウトカムに影響を及ぼす曝露が繰り返し起こり,かつ新たな曝露が起こるがどうかがそれまでの曝露の影響を受ける際にとられる解析手法です.その結果,再入院の減少につながっていないことが示されたわけですが,ここからさらに進めて,その一因と考えられるものとして,制度を使って医療点数を請求していないことが多いからではないかというところまで議論しています.お手本のような研究ですね.