2026年9月24日木曜日

複雑系における多疾患併存

 Arakelyan S, Guthrie B, Anand A, Lone N, Mercer SW, Tooman T. Clinical empathy and relational continuity mitigate care fragmentation for patients with multiple long-term conditions: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0171. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0171


背景

多疾患併存(multiple long-term conditions: MLTC)をもつ患者への医療サービスは、断片化し、十分に連携されていないシステムの中で提供されている。しかし、サービスの変化やシステムの複雑化に応じて、患者のケアに対する経験、認識、行動がどのように形成され、変化していくのかは十分に理解されていない。


目的

複雑適応系(complex adaptive care system)の中で、MLTC患者とその介護者のケアに対する経験や認識がどのように形成・変化するのかを明らかにし、より良いケアにつながる機会を特定すること。


デザイン・セッティング

スコットランドの4つの統合型保健・社会福祉パートナーシップにおいて、MLTC患者および介護者28人を対象に、6つのフォーカスグループを実施した質的研究。


方法

2024年2月から5月にデータを収集した。複雑適応系の視点に基づくアブダクティブ分析を行った。


結果

MLTC患者へのケアは、患者、介護者、医療専門職、組織構造の間の動的かつ相互的な相互作用によって形成されていた。増加する医療需要に対応するために導入されたサービス変更は、患者の複雑なニーズと一致していないと認識されることが多く、その結果、患者や介護者はアクセス上の障壁を乗り越えるために自身の行動を変化させていた。

ケアの経験は予測困難であり、小さな個人的な相互作用が、信頼や医療への関与に不釣り合いに大きな影響を与える強化型フィードバックループによって形作られていた。また、システムの不足を埋めるためにインフォーマルケアが拡大し、家族がケアの調整や患者の権利擁護を担うようになっていた。

その一方で、臨床的共感(clinical empathy)とケアの関係性の継続性(relational continuity)は、断片化したケアシステムの中で重要な安定化要因として機能していた。


結論

ケアの効率化を目的としたサービス変更は、意図せずケアを不安定化させ、MLTC患者や介護者に負担を転嫁する可能性がある。その結果、患者が感じるケアの質や、医療者との関係性の継続性にも影響を及ぼしうる。医療者と患者の相互作用や関係性の質が、患者のケアに対する認識と、その後の医療への関与を形作る。


感想

多疾患併存に対する王道の質的研究だと思いました。

  • MLTC患者にとって、医療は「複数の疾患別サービスの寄せ集め」になりやすい


  • 患者・家族は、断片化したシステムに「適応」していた。システムの問題を患者・家族自身が補っていた。つまり、自分で予約を取る、医療機関を使い分ける、救急を利用する、家族が調整役になる、といった行動が生じていた。


  • 医療者との小さな相互作用が、信頼やその後の受療行動に大きな影響を与えた。良い経験は信頼・継続的な受療を促進する一方、些細に見える対応の悪さが不信や受療中断につながることがあった。


  • clinical empathyとrelational continuityが、断片化を「安定化」する。自分の病歴を理解してくれる医療者、共感的に話を聞いてくれる医療者、他のサービスとの調整をしてくれる医療者の存在が、患者・家族の負担や不確実性を軽減していた。


というのがこの研究の論旨だと思います。


システム改善が必ずしも患者にとって改善になるとは限らず、効率化のためのデジタル化・標準化が、MLTC患者にはむしろ新たな適応を要求していること、逆に、「ちょっとした共感」「顔の見える継続的な関係」といった小さな相互作用が、システム全体の経験を大きく変えるというのが、まさに複雑系という感じです。