2026年9月22日火曜日

プライマリケアでACSを除外する

 van den Bulk S, Petrus AH, Willemsen R, Numans ME, Boogers MJ, Hermans MPJ, Meeder JG, Rahel B, Janssen M, Dinant G, Cobbaert CC, Bonten TN. Ruling out acute coronary syndrome in primary care: a diagnostic trial (POB-HELP). Br J Gen Pract. 2026 Sep 10. doi:10.3399/BJGP.2026.0167. https://bjgp.org/content/early/2026/09/10/BJGP.2026.0167


背景

プライマリ・ケアにおいて胸痛患者を正確にリスク層別化することは、患者安全を改善すると同時に、不必要な病院紹介を減らす可能性がある。


目的

高感度トロポニンI(hs-cTnI)とMarburg Heart Score(MHS)を組み合わせたclinical decision rule(CDR)について、プライマリ・ケアの胸痛患者における急性冠症候群(ACS)、特に心筋梗塞(MI)を除外する診断性能を評価し、通常診療と比較して紹介率を検討すること。


デザイン・セッティング

オランダのプライマリ・ケア診療所で実施されたcluster-randomised diagnostic trial(介入:対照=2:1)。


方法

急性胸痛を呈した患者を、家庭医がCDRを用いて評価した。CDRはMHSと、point-of-careで測定するhs-cTnI検査を組み合わせた。対照群の家庭医は通常診療を行った。

診断性能について、感度、特異度、NPV)、PPVを評価した。また、副次的評価としてmodified HEART scoreと、単回hs-cTnIによるrule-out strategyも評価した。


結果

合計827人が参加し、740人が介入群、87人が対照群であった。

CDRではACSを1例見逃した。ACSに対する感度は98.3%(95% CI 90.8–100%)、NPVは99.7%(95% CI 98.0–100%)だった。特異度は49.1%、PPVは14.1%だった。MIについては、感度 100%、NPV 100%であった。特異度は48.6%、PPVは11.9%だった。

一方、病院への紹介率は介入群54.6%、対照群47.1%で、両群間に有意差は認められなかった(P=0.39)。


結論

MHSとpoint-of-care hs-cTnI検査を組み合わせたCDRは、プライマリ・ケアにおいてACSおよびMIを安全に除外することができた。しかし、通常診療と比較して、病院紹介率には有意な差はなかった。


感想

まずはCDRの詳細を。MHS(Marburg Heart Score)+指先採血hs-cTnIで判定しています。

MHS ≤2 + hs-cTnI ≤3.8 ng/L→ ACSをrule out → 経過観察

どちらか一方が陽性→ ACSをrule outできない → 循環器医に相談

MHS ≥3 + hs-cTnI ≥3.9 ng/L→ ACSリスク高い → EDへ直接紹介

(hs-cTnIは指先採血で約8分で測定。)


MHSについては以下の通り

年齢・性別    :男性 ≥55歳、女性 ≥65歳で1点

心血管疾患の既往 :あれば1点

患者自身が「心臓が原因」と考えていれば1点

運動で胸痛が増悪  :あれば1点

触診で胸痛が誘発されなければ1点

MHS ≤2点 = low risk MHS ≥3点 = high risk 


本研究の重要ポイントとして、家庭医はこの予測ルールの推奨を無視することができるという点です。

つまり実際医は、CDRが経過観察を指示していても、医師の判断で紹介できますし、循環器に相談することが示唆されても家庭医の判断で経過観察にできます。

実際に、医師の臨床判断を一切入れずCDRだけで機械的に運用すると、rule outできたのは20%のみで、理論上の救急紹介率は80%になっておいます。


つまり、

CDRは安全に除外できるが、機械的に運用すると大量の患者を紹介する羽目になる。

家庭医の臨床判断は優秀で、経過観察で紹介せずに済んだ群がかなりいる。

ということですね。


そう考えると、abstractの結論の記載はだいぶmisleadingで、予測スコア使わず、引き続き医師が臨床判断したほうがいい、と私なら解釈するなと思いました。