2015年2月6日金曜日
消化管出血(Clinical Problem-Solving)
今週のNEJM Clinical Problem-Solvingです。
消化管出血に対するアプローチと、LVADとの関係について考察されていました。
Clinical Problem-Solvingは、実際の対応とそれについてのコメントが交互に記載されており
実際に患者さんを目の前にしたときの思考過程を追いかけることができます。
このシリーズをまとめた単行本も出ています。邦訳もあります。
出てくる症例と考察が奥深く、その分量もあり読むのに難儀した記憶があります。
単調になりがちな医学生勉強に刺激的なスパイスを与えてくれる本です。おすすめです。
【患者】2.5か月前にLVAD(左室補助人工心臓)をいれた66歳男性
【主訴】2日目からの疲労感、起立時のふらつき、鮮血便→黒色便に移行
見た目は蒼白で、心拍74bpm、血圧117/99です。
心拍が上昇していないですが、βブロッカーなど心臓系の薬剤を服用しているためであると考えられるそうです。なるほど…。
一見ショックバイタルではないですが、心疾患がある→薬剤の影響があるのでは、という思考なのですね。
低血糖のときも同じですね。βブロッカーを服用していると冷汗、頻脈などの症状が出にくくなります。
アナフィラキシーショックの時にアドレナリンが効きにくくなるのも注意です。グルカゴンの使用を考慮します。
英語ではhematochezia=血便、melena=黒色便と使い分けます。
友人の初期研修医が、「血便」ということばの使い方が現場で各人まちまちだから統一したいと話していたのを思い出しました。
まずはショック状態の離脱。並行して出血源の特定です。
本例では輸液、輸血後にエソメプラゾールを投与しています。reasonableな判断だとコメントされています。
鑑別としては、胃潰瘍や炎症(食道炎、胃炎)が第一に挙がります。
LVAD装着患者ではangioectasiaの可能性が強まるそうです。
肝硬変の所見はないので静脈瘤の可能性は下がります。
ちなみに、肝硬変の所見で感度、特異度ともに高いのは顔面の毛細血管拡張症で、Se/Sp=82/92だそうです。(@Tk23BotBot3による)
稀な鑑別疾患としては、癌、Dieulafoy病変(粘膜が小欠損していて動脈が露出している)、憩室出血、大動脈消化管瘻があります。
angioectasiaは、angiodysplasiaと同義と理解しています。
UpToDateによると、60歳以上の患者の右側の結腸にできることが多いそうです。
50歳以上の無症状の人をあつめてくると、そのうちの0.8%に見られるそうですが、スクリーニングは推奨されていません。
末期腎不全、von Willebrand病、大動脈弁狭窄症に併発することが多いです。
LVAD装着患者にangioectasiaが多いことは今回初めて知りましたが
大動脈弁狭窄症とangioectasiaの合併はHeyde症候群として聞いたことがありました。
どちらもvon Willebrand因子の破壊が病態であると考えられているみたいです。
本例では、まず上部内視鏡を行ったところ、食道炎が見つかりましたが、これだけでは大出血をきたさないだろう→他にも出血源があると考え、シンチで十二指腸の出血源を発見→カプセル内視鏡でangioectasiaを確認という流れでした。
~Clinical Pearl~
心疾患のある患者では、バイタルが薬剤の修飾を受けているのではと考える。
出血源、1つ見つけただけですぐ満足するな。
末期腎不全、von Willebrand病、大動脈弁狭窄症、LVAD装着患者の消化管出血は、angioectasiaをより強く疑う。