2015年2月21日土曜日

鼠径部ヘルニア(NEJM Clinical Practice)



今週のNEJM Clinical Practiceは、成人の鼠蹊部ヘルニアについてでした。
本文はこちらです。


Groin herniaは、inguinal herniaとfemoral herniaを合わせた概念です。
この記事では、groin herniaを「鼠径部ヘルニア」、inguinal herniaを「鼠径ヘルニア」と訳しています。



キーポイントは以下の5つ。

○男性の鼠径部ヘルニア発症頻度は女性の10倍以上
○陥頓していたらすぐ手術
○鼠径ヘルニアは、男性で無症状なら経過観察もありだが、結局10年以内に痛みが出てきて手術が必要になることが多い。
○単純な片側性の鼠径ヘルニアなら、open repairは部分麻酔かつ低コストで済む。腹腔鏡は痛みが少なく日常生活への復帰も早いが、全身麻酔が必要であり、腹腔内損傷のリスクもある。
○女性のヘルニアでは経過観察は勧めない。女性は大腿ヘルニアが多く、しかも鼠径ヘルニアと見分けるのが困難だからである。



以下、外科的治療の項を除いて、要点をまとめます。

【疫学】
鼠径ヘルニアは右>左で、間接ヘルニアの頻度は直接ヘルニアの2倍。
鼠蹊部ヘルニアの年間発症率は18歳で0.25%、75-80歳で4.2%

大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアの5%以下。
大腿ヘルニアの35-40%は陥頓や腸閉塞になってはじめて診断される。
大腿ヘルニアは女性>男性。
女性の鼠径部ヘルニアのうち、鼠径ヘルニアは大腿ヘルニアの5倍。

鼠径部ヘルニアリスクは男性、高齢、家族歴(~8倍)、COPD、喫煙、低BMI、腹腔内圧上昇、膠原病性脈管疾患、胸腹部大動脈瘤、鞘状突起開存、開腹での虫垂切除術の既往、腹腔透析。


【症状】
鼠径部ヘルニアの症状は、重い/引っ張られる感覚、灼熱感、鋭い痛み、咳嗽・排尿排便・運動・性交時の不快感や疼痛。
ただし1/3の患者は無症状
症状は1日の終わりにかけて悪化し、横になるか用手的に還納すると良くなる。
急性発症の強い疼痛は陥頓を考えて緊急手術。


【診断】
治療は同じなので、間接ヘルニアと直接ヘルニアを鑑別する必要はない。
身体診察のみで間接ヘルニアと大腿ヘルニアを鑑別できないときもある。
症状は典型的だが身体診察で異常がないときにのみ、潜在ヘルニア(occult hernia)などを除外するため画像診断が必要である。

鼠径部腫瘤の鑑別診断はリンパ節腫大、軟部腫瘍、膿瘍。
陰嚢腫瘤の鑑別診断は陰嚢水腫、精巣がん。
鼠径部ヘルニアに一致する症状があるのに腫瘤がないときの鑑別診断は、潜在ヘルニア、精巣上体炎、局所の筋骨格的異常(股関節炎、恥骨結合炎、腱滑膜炎など)、神経根圧迫、腎結石。

アスリートでヘルニアのような症状が出ることがある。いわゆるスポーツヘルニア(鼠径部痛症候群、鼠径部後壁の弱体化により慢性の運動時痛を呈する)や、大腿骨寛骨臼インピジメント(股関節の関節唇損傷)、長内転筋腱障害など。


【マネージメント】
無症状またはわずかにしか症状のない鼠径ケルニア患者における、経過観察と外科的手術のRCTが2つ存在する。(n=160とn=720)

・1年経過時で疼痛の度合に有意差なし。(n=160)
・2年経過時でQOLに有意差なし。(n=720)
・15ヶ月経過時(n=160)、または2年経過時(n=720)で、経過観察群の1/4が主に疼痛のため手術施行となった。この時点では、手術による合併症は増えなかった。
・7.5年経過時で経過観察群の72%が手術施行となった。(n=160)
・10年経過時で経過観察群の68%が手術施行となった。(n=720)
・65歳以上の患者の79%は、手術が必要と予測される。(n=720)

以上より、無症状またはわずかにしか症状のない鼠径ヘルニアを経過観察にすることは、安全ではあるが手術の先送りにしかならないといえる。全身状態の脆弱化や筋膜欠損の進行により合併症の頻度は増えてしまうだろうと考えられる。

このRCTの対象は「ヘルニアを心配して受診した患者」なので、患者の多くを占める「無症状かつ気づいていない」患者にこの結果をそのまま外挿することはできない

また、女性の鼠蹊部ヘルニアは大腿ヘルニアが多いので、経過観察は勧めない。