2015年2月28日土曜日
62歳男性:術後の持続する嘔気嘔吐(Mayo Residents' Clinic)
Mayo Clinical ProceedingsのResidents' Clinicです。
2月分をまだ記事にしていませんでした。
62-Year-Old Man With Persistent Postoperative Nausea and Vomiting
2型糖尿病、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(6か月前に診断)、慢性腎不全(ステージ3)、冠動脈疾患の既往のある62歳男性。
僧房弁の心内膜炎で入院中。バンコマイシンとリファンピンを含む広域抗菌薬で治療も、重篤な便硬化を来したため手術に。
抗菌薬開始後から嘔気、嘔吐、疲労感、食欲低下が進行、術後15日経っても症状持続。増悪寛解因子なし。吐き気止めは効果なし。
発熱、悪寒は抗菌薬開始後良くなった。腹痛なし。便通変化なし。胸やけ、頭痛、めまいなし。
体温37.1℃、心拍65、血圧138/73、SpO2 96%r/a
弱っている印象。BMI 19。腹部所見異常なし。発赤なし、浮腫なし。
なんだろうなー。うーん、よくわからん。
とりあえず、multimorbidityだなーと思ったら、真っ先に薬剤性を考えることにしているので、何らかの薬剤の副作用かなと。
腸閉塞を起こしているわけではなさそう。感染症による症状でもなさそうですね。
嘔気嘔吐に関係する薬剤は数多いですが、特に注意すべきは以下の通り。
オピオイド、NSAIDs、抗菌薬、抗不整脈薬、抗てんかん薬
外来では大麻中毒も考えるようにとありました。あらら…。
この患者は痛みどめは服用していないです。バンコマイシンとリファンピンが怪しいか。
WBC 8500, Cre 3.5, BUN 33, Na 131, K 5.2, HCO3 25, Glu 64, 肝酵素異常なし
この主訴で低Naと高Kとくれば、副腎不全を考えますね。
低Naは副腎不全患者の90%で見られるそうです。
主訴の時点で鑑別に挙げられなかったのは反省です。
原因は何でしょうか。手術の侵襲は関係しているのでしょうが、症状は手術前からですね。
次の問題は、副腎不全が原発性か続発性かです。、
頻度からすれば、続発性は原発性の2倍です。
続発性では低血糖が見られやすいそうです。
一方、原発性では、色素沈着は言わずもがなですが、消化器症状と高Kが見られやすいそうです。
CRHとコルチゾールを同時に測るのが現段階での最善手とのことです。CRH>100pg/mlなら原発性で確定だそうです。
本症例では、CRH58pg/ml(基準値10-60)、CRH負荷でコルチゾール上昇したので続発性となります。
日本だとどうなのでしょうか。CRHではなくACTHを測定するとおもいます。
急性だと検査を待たずステロイド投与だと思いますが、今回の場合は結果を待っていいでしょう。
治療効果の判定は、検査値ではなく臨床症状でやるのがいいみたいです。
原発性副腎不全の原因として最も多いのは、やはりステロイドの怠薬でしょう。
他にも自己免疫性(Addison病)、結核、AIDS、感染による相対的ステロイド欠乏などが挙がるそうです。
続発性で最も多いのは汎下垂体機能低下症です。
本例でももともと下垂体の機能が落ちていたことは推察されます。
なんと、リファンピンは副腎不全を引き起こすそうです!
リファンピンがCYPを活性化させることは知っていましたが、コルチゾールがCYPで代謝されるために副腎不全を招くとのことです。
他にも、ケトコナゾール、フルコナゾール、フェニトイン、エトミデートなども、下垂体や視床下部の機能が低下している人が服用すると副腎不全が起こる可能性があるそうです。
以上、リファンピンでステロイド代謝が活性化したことによる副腎不全の症例でした。
勉強になりました。
~Clinical Pearls~
慢性の副腎不全は特異的症状に乏しい。病歴、既往歴、薬剤歴から積極的に疑う。
続発性副腎不全をみたら、CYPを活性化させる薬剤を探す。
multimorbidityは薬剤の副作用に特に注意!
ラベル:
MAYO RESIDENTS' CLINIC,
medical,
感染症,
内分泌,
薬剤