2015年2月28日土曜日

81歳女性:左臀部痛(Mayo Residents' Clinic)



引き続き、Mayo Clinical ProceedingsのResidents' Clinicです。

81-Year-Old Woman With Left Hip Pain


81歳女性。2週間前に風呂場で転倒して左側を打った。転倒前後に前兆や意識消失は無し
初めは左臀部が少し痛い程度だったが、次第に痛みと腫れが強くなり、歩けなくなった。左大転子部に巨大な内出血あり。
既往は慢性腰痛、骨粗鬆症、リウマチ性多発筋痛症、パーキンソン病(最近診断された)。
薬剤はリセドロネート、カルビドパ‐レボドパ(一か月前より服用)、プレドニゾン。


医学雑誌のJIM(現:総合診療)でみた、僕が知る限り最短のクリニカルパールがこちら。

「なぜ転んだのか」

転倒時の意識消失などを聴いているのは、転倒が起きた原因を知りたいからですね。
実は心原性の失神が起こっていた、なんてことになると、急性期のマネージメントも変わってきます。
もちろん、白内障だった、風邪をひいてふらふらしていた、家の段差に躓いた、など原因となりうるものは多数あります。
ここら辺は、家庭医的な視点をもつ必要がありそうです。

もちろん、転倒の結果としての外傷も大事です。
見た目には大丈夫でも、骨折や硬膜下血腫など、注意点はたくさんあります。

本症例では、パーキンソン病による姿勢障害や起立性低血圧が転倒の原因でしょうか。
そして、転倒の結果として、左股関節部の打撲が起こった、と考えます。
骨粗鬆症の既往がありますし、大腿骨骨折について慎重に診る必要があります。



痩せて青白く、痛みがつらい様子。心拍80、呼吸数12、血圧102/60(普段のsBPは125-135)、体重45.1kg

血圧がいつもより低いですね。
自分では思いつかなかったのですが、パーキンソン病の自律神経障害で、循環血液量が下がっても心拍が上昇しないことがあるそうです。
実はショックバイタルの可能性があるということですね。恐ろしい…。

どこかに出血があるのでしょう。
考えられる可能性は2つあると思います。
1.消化管出血などが先行→循環血液量減少で起立性低血圧→転倒
2.転倒→打撲部位に巨大血腫



身体診察:左臀部に巨大血腫あり(8×10cm)、そのため左股関節可動制限あり。神経所見なし。
検査:Hb 6.7g/dl、Plt 17.5万

あらら、出血源はここですね。
重篤な出血を引き起こす原因がなにかあるのでしょうか。
ともあれ、輸液を始めましょう。



Ret, PT, APTT, 末梢血塗抹標本をみる必要があるそうです。
APTTは85.1秒と著明に延長、PTは14.0秒とわずかに基準値外です。
塗抹標本は特に問題なし。

CTで他の部位にも血腫が見つかったそうで、いよいよ凝固異常の鑑別を始める必要が出てきました。



高齢者でAPTT単独延長をみたら、私なら後天性血友病を第一に考えます。
検査の結果、やはり後天性血友病の確定診断となりました。

後天性血友病は、第Ⅷ因子を阻害する自己抗体ができてしまう疾患です。
男女比はほぼ同じ半数は特発性です。
続発性としては出産後、自己免疫疾患、悪性腫瘍、皮膚疾患、感染、薬剤があるそうです。
鼻出血、消化器出血、尿路出血、内出血、血腫などが初発症状になります。関節内出血はあまり起きないそうです。

治療の目標は2つ、出血のコントロールと、抗体の根絶です。
前者としては、anti-inhibitor coagulant complex(ファイバ®)やrecombinant factor VIIa(ノボセブン®)などを使います。
後者は、ステロイドやシクロフォスファミド、リツキシマブなどです。

コントロールがついたら、背景疾患を探します。
悪性腫瘍が隠れていたりしますからね。



~Clinical Pearls~

パーキンソン病患者では脈拍が上昇せずショックバイタルが隠れることがある。
(心疾患のある患者も同様。詳しくはこの記事を。)

後天性血友病をみたら、隠れている疾患を探す。

なぜ転んだのか。