2021年2月23日火曜日

PIFは白人文化の影響を受けた概念なのか

Wyatt TR, Rockich-Winston N, White D, Taylor TR. "Changing the narrative": a study on professional identity formation among Black/African American physicians in the U.S. Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2021 Mar;26(1):183-198. doi: 10.1007/s10459-020-09978-7. Epub 2020 Jun 22. PMID: 32572728.

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10459-020-09978-7


プロフェッショナルアイデンティティ形成(PIF)は、医師の育成において重要なプロセスと考えられている。しかし、初期のPIF研究では、民族的/人種的にマイノリティである医師の経験を誤って省いている可能性がある。その結果、PIFの文献は、マイノリティ医師の経験を反映していないPIFに関する支配的な視点や仮定を推し進めている可能性がある。本研究では、最初に構成主義的グラウンデッドセオリーを用いてインタビューデータを収集し、それから批判的なレンズを用いて分析するという横断的な研究デザインを用いた。参加者は、米国の南部にある2つの医学部の黒人/アフリカ系アメリカ人学生14名、研修医10名、指導医17名であった。コーディングには、黒人フェミニストスカラーシップから発展したboth/and conceptual frameworkが含まれ、さらに医学の白人文化を用いて分析した。これらのレンズは、支配的なPIFの文献で行われた仮定を特定し、それが黒人医師によって記述された経験とどのように比較されたかを明らかにした。その結果、医学教育が歴史的にマイノリティ医師を医学教育から排除してきたことで、白人文化が増殖し、その影響がPIF研究の枠組みを形成し続けていることが示された。黒人医師は、自分たちの職業的アイデンティティを、自分たちの人種/エスニックのコミュニティに奉仕しているという観点から説明し、個人/職業的アイデンティティと文脈との間の相互関連性を説明した。彼らの専門的なアイデンティティは、より大きな社会的、歴史的、文化的な黒人に対する虐待に挑戦するために使用されており、支配的なPIFの研究では記述されていない知見が得られた。白人文化の中でマイノリティである個人としての黒人医師の経験にかんするPIFの文献は限られており、現在のPIFの枠組みはマイノリティ医師を研究するには不十分である可能性があることを明らかにした。


用語解説

・横断研究(質的研究の場合)

関心のあるトピックをよりよく概念化し、特定の集団内での負担を理解するために、一度に複数の参加者グループからのデータ収集と分析を行うデザイン.

特定のトピックに関する縦断的研究が必要だが,収集されたデータがtime-sensitiveであったり、直ちにフィールドに関連する場合に,理想的なデザインである。


・both/and framework

マイノリティ化されたグループ間の抑圧の連動性を認識し、これらの経験から開発された研究パラダイムの必要性を認識するためのフレームワーク。このフレームワークは、参加者が黒人医師(黒人であることと医師であることの両方)としての職業的アイデンティティを説明した場合と、黒人医師であることを含むがそれを超えた形で自分のアイデンティティを説明した場合を特定した。(本文より)


感想

コーディングを2段階でしているのが特徴です.1段階目は「医師であり黒人である」というフレームワークをもちいて,2段階目でポストコロニアル理論を用いて支配的な白人文化による影響を明らかにしています.この構造を明らかにするために,palimpsestというメタファーを用いています.palimpsestは,書かれている文字を不完全に消したあと別の内容を上書きした羊皮紙の写本を指し,PIFの文献の中に2つの異なる「テキスト」が存在することを表現しています.

文化人類学の知見に裏打ちされた重厚な分析がなされていると思います.