2015年6月17日水曜日

甲状腺機能低下症の鑑別と治療経過



甲状腺機能低下症について
とくに鑑別と治療経過を中心にまとめてみました。

参考:UpToDate Disorders that cause hypothyroidism Treatment of Hypothyroidism Hypothyroid myopathy

[鑑別]
TSHの値でprimary hypothyroidismなのかsecondary hypothyroidismなのかは判断できます。
全身のレセプター異常ということも稀ながらあるみたいです。

primary hypothyroidismの原因として、圧倒的多数は橋本病です。
その他の原因としては以下の通りです。
・医原性(甲状腺摘出、放射線照射など)
・ヨウ素欠乏/増多
・薬剤
・浸潤性疾患(線維性甲状腺炎、ヘモクロマトーシス、サルコイドーシス)
・一過性の甲状腺炎
 無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、出産後甲状腺炎

薬剤はリチウムアミオダロンは有名だと思います。
ヨード入りうがい薬の多用による症例報告を以前読んだことがあります。

日常診療で良く使う薬だと、鉄剤やPPIは薬剤の吸収不良を招きます
以前、この記事で扱いました。


[治療]
チラージンを投与する際は、
心疾患がないか、心臓の薬を飲んでいないか
masked adrenal insufficiencyがないか
に気を付ける必要があります。
投与後に低血圧、意識障害が出現すれば、それは副腎クリーゼかもしれません。

チラージンの初回投与量は
UpToDateでは合併症のない若い患者で1.6ug/kg/dayを推奨しています。
甲状腺の数値を早く正常化できるみたいですが、症状・QOL改善の速度は少量投与時とあまり変わらないみたいです。
この部分の記載は、Arch Intern Med. 2005;165(15):1714-1720.に依拠しています。
また今度、批判的に読んでみようと思います。

ワシントンマニュアルには、中年までなら100ug/day、健康な高齢者なら50ug/day、心臓病あれば25-50ug/dayで開始するようにとあります。

治療が効いていれば、2週間以内に症状改善が見られます。
血液検査でTSHが安定するには少なくとも6週かかるそうです。
なので血液の再検査は6週後、そこでTSH低値なら12-25ug/dayずつ増量して再度6週後検査となります。

治療開始後2-3週経っても症状がつづく場合は3週後再検です。

ただ、甲状腺機能低下症によるミオパチーは、症状改善するまでの期間の中間値が5.5か月と、比較的長いです。


筋の脱力、痙攣、痛みといった症状は甲状腺機能低下症の79%にみられます。
甲状腺機能低下ミオパチーでは
緩徐進行で対称性の近位筋力低下を呈するのが典型的です。
肩や臀部が最も高率に侵されます。多発性筋炎と紛らわしいこともあります。

他には、Hoffmann症候群(筋硬直、筋力低下、有痛性筋痙攣)に代表される症状や
ひどい場合は横紋筋融解症→腎不全になることもあります。

アキレス腱反射弛緩相遅延は有名ですが、
myoedema(筋をたたくと筋表面に小さいコブができ、30秒程度続く)という所見もあります。


~Clinical Pearls~

・多発性筋炎を疑うなら、甲状腺機能低下症を鑑別に挙げる

・甲状腺機能低下症によるミオパチーの症状改善は長期間かかる

・鉄剤+チラージンはチラージン効かないかも

・チラージン投与後の副腎クリーゼに注意