2019年9月30日月曜日

腓骨神経麻痺とその鑑別


外来で出会ったので,調べて見ました.
こういうコモンな疾患は,徹底的に特徴を覚えておく必要があります.

まず解剖から.
腓骨神経は膝関節後方で坐骨神経から分岐し,腓骨頭にまきつくようにして下腿外側を下降していきます.
なので,腓骨頭での圧迫で麻痺を生じます.

症状は,足部外側~足背・足趾にかけての感覚障害と,足関節背屈障害です.
小趾の感覚は保たれている点がポイントです.小趾は腓腹神経支配です.

主な鑑別はL5神経根症です.
感覚障害の部位は一致します.
鑑別点は,後脛骨筋(つまり足関節の底屈内反)です.
後脛骨筋はL5神経根由来ですが,腓骨神経ではなく脛骨神経が支配しているため
足関節の底屈内反が障害されていればL5神経根症
障害されていなければ腓骨神経障害の可能性があがります.

その他,上円錐症候群中心前回の脳梗塞の除外も必要です.

中心前回の微小な梗塞は,末梢神経麻痺のように見えることがあります.
上肢の症状であっても同様ですね.
たとえば,突然発症の下垂手をみたら,橈骨神経麻痺ではなく,中心前回の脳梗塞を疑う必要があります.
身体所見では腱反射亢進の有無などが鑑別点でしょうか.
病歴がはっきりしていればそちらのほうが役に立つかもしれません.
ただ,寝ておきたら麻痺,というケースでは病歴では判断困難ですよね.
このあたりは,積極的に頭部画像検査を行ってもよいのかもしれません.

蛇足ですが,中心後回の脳梗塞でpure sensory palsyをきたすことも押さえておくべきですね.
外来で出会うと,ついつい見逃してしまいそうです.

上円錐症候群はL4-S2レベルの障害を呈します.
大半が慢性発症でしょうし,腱反射亢進や異常反射の出現で疑いたいです.
ということは,腓骨神経麻痺だと思っても,しっかり反射をとらなくてはいけませんね.

以上,頭に叩き込んでおきましょう.


2019年9月23日月曜日

サルコイドーシスをどう疑うか.


サルコイドーシスの表現型として有名なのは以下の2つ.

Heerfordt症候群:ぶどう膜炎,耳下腺腫脹,顔面神経麻痺+微熱

Löfgren症候群:BHL,関節炎,結節性紅斑

これがどうも覚えられないのです.
なので,自分のところにくるならどうやって現れるかを考えて見ます.


まず,Heerfordt症候群.
ぶどう膜炎が前面にでれば,患者はまず眼科を受診するかなぁ.
充血,眼痛,羞明,視力異常,霧視などで,ぶどう膜炎を想起すれば,どちらにせよ眼科を紹介するだろうし,ぶどう膜炎の原因疾患としてサルコイドーシスは有名なので,途方にくれることはなさそう.

耳下腺腫脹は無症候性だろうけど,微熱患者で偶発的に発覚して紹介,という流れはありそう.
となるとSjögren症候群やIgG4関連疾患をどうしても想起してしまいます.
Sjögren症候群は基本的に無熱性なので,違和感を持つとしたらそこでしょうか.

顔面神経麻痺でやってくるパターンが,もっとも可能性高そうです.
単純にこなしてしまうと,Bell麻痺か,
はたまたRamsay-Hunt症候群を疑って外耳道をみるかで,
終わってしまいそうです.

Bell麻痺っぽいけど,熱もあるし,眼も赤いし…という臨床像で
サルコイドーシスを疑うようにしなければいけません.

つづいてLöfgren症候群.

BHLがあれば真っ先にサルコイドーシスを疑うだろうと思います.

原因不明の多関節炎をみているときに,胸部X線を注意して見る,というプラクティスは
いままでしてこなかったなぁと反省です.
また,結節性紅斑+関節炎だと,関節リウマチや炎症性腸疾患などが真っ先に浮かんでしまいます.
あとはSweet病やリンパ腫とかですかね?関節炎はあまりないか・・・

結節性紅斑+関節炎で,サルコイドーシスを想起する,という練習が必要ですね.

というわけで,むりやりまとめるなら以下の通り.

有熱性の耳下腺腫脹→サルコイドーシスかも?
顔面神経麻痺→Bell麻痺だと思う前に一回はサルコイドーシスを想起する
結節性紅斑+関節炎→関節リウマチと思い込む前にサルコイドーシスを疑う


2019年9月16日月曜日

上葉優位の瀰漫性肺陰影


瀰漫性肺疾患はとても苦手です.





こういった本で勉強しているのですが,なかなか頭に入っていきません.

疾患名をわかった状態でCTを読むのと,実診療でまずCTがきて鑑別をあげるというのは
当たり前ですが,まったく違うものですね.


必要があって調べていたら,上葉優位の分布をきたす疾患の覚え方をみつけました.

CASSET-P(詳しくはこちら
C:慢性過敏性肺臓炎(CHP),嚢胞性線維症(cystic fibrosis)、
A:強直性脊椎炎(ankylosing spondylosis)、網谷病(PPFE)
S:サルコイドーシス(sarcoidosis)
S:珪肺(silicosis)
E:eosinophylic granuloma(現在はランゲルハンス細胞組織球症)
T:結核(tuberculosis)を含めた慢性感染症(非結核性抗酸菌、真菌など)
P:ニューモシスティス肺炎(PCP)特にペンタミジン予防吸入中

さらにグループで覚えると
吸い込んで発症(過敏性肺臓炎,珪肺,結核等.ペンタミジン吸入が届かずPCP発症)
全身疾患(強直性脊椎炎,サルコイドーシス)
あとはPPFEとランゲルハンス細胞組織球症,ですね.


強直性脊椎炎で肺線維症が起こるのをはじめて知りました.
他にも,ぶどう膜炎(虹彩炎),炎症性腸疾患、弁閉鎖不全、心筋伝導障害が併発することがあります.

PPEE(pleuroparenchymal fibroelastosis)もはじめて聞きました.
くわしくはリンク先参照(こちらこちら

CPFE(combined pulmonary fibrosis and emphysema)なら経験があります.
上肺野に肺気腫,下肺野に間質性肺炎,というのが典型ですね.
肺がん,肺高血圧に注意です.

ランゲルハンス細胞組織球症は喫煙者の上肺野の結節影+小空洞というのが典型例でしょうか.


単純化しすぎていますが,非専門医が頭に入れるにはこのあたりが限界です.
最初の方針をたてて専門医につなぐとっかかりくらいにはなるでしょう.

再度,瀰漫性肺疾患の勉強をしなくては.
もう一回教科書読み直そう.



2019年9月9日月曜日

症例報告:Wallenberg syndromeのpost-stroke pain syndrome


症例報告がAmerican Journal of Medicineに掲載されました.
https://doi.org/10.1016/j.amjmed.2019.06.042


眼周囲の刺すような痛みで来院した患者でした.
神経所見を丁寧にとることで
Wallenberg症候群によるpost-stroke pain syndromeと診断できました.

脳梗塞後の疼痛は視床で有名ですが,次に多いのはWallenberg症候群です.
温痛覚の低下している領域に疼痛が起こります.

発症後しばらくしてから出現することもありますが,
本例では初期症状として疼痛が出ていました.
顔面に出るタイプのpost-stroke painは,発症早期におおいことがわかっています.

眼が充血していないのに眼の周囲が痛い(periorbital pain in a quiet eye)ときには
群発頭痛や三叉神経痛,副鼻腔炎,巨細胞性動脈炎などを疑いますが
神経診察を怠るとこのようなケースを見逃してしまいます.
その意味で教訓的なケースだと思います.

ぜひご一読ください.


2019年9月2日月曜日

症例報告:Disappearing into the Drug Crowd


American Journal of Medicineにケースレポートがアクセプトされました!
https://doi.org/10.1016/j.amjmed.2019.05.052

意識障害の患者で,病歴が聴取できず困ったため,
家にある内服薬を持ってくるようお願いしたところ,
大量の残薬(8施設より47種類:マグミット1580錠,センノシド992錠など)が発覚し
下剤が大量に処方されている→それを飲んでいない→肝性脳症だ!
と診断にいたったというケースです.

ポリファーマシーが健康に影響を与える経路として
prescribing potentially inappropriate medications:不適切な薬剤が入っている
Potential Prescribing Omittions:適切な薬剤が入っていない
という2つが従来より提唱されています.

しかし,このケースは上の2つには当てはまりません.

キードラッグ(この場合は下剤)は処方されている
 →他の薬が多すぎる
 →多すぎて飲めない
 →有害事象発生

本論文で,この経路をDisappearing into the Drug Crowdと名づけました.

衝撃的な残薬の写真を論文に載せることができただけでもうれしいです.
マグミットの数はうちの病院の在庫を超えていました.
(以下,論文より引用)


小病院でも,ありふれたケース(下剤のまずに肝性脳症発症)でも
国際誌にアクセプトされる,ということがわかり,非常に勉強になりました.

よろしければご一読ください.