2015年3月12日木曜日
NEJM Case8-2015
NEJM Case Recordです。
ざっくりまとめます。本文はこちら。
Case 8-2015
A 68-Year-Old Man with Multiple Myeloma, Skin Tightness, Arthralgias, and Edema
【患者】多発性骨髄腫の治療を受けている68歳男性
【主訴】皮膚緊満感、関節痛、手足の腫れ
約2年前に多発性骨髄腫の診断をされ、多剤薬物療法開始。9カ月前に自家幹細胞移植し完全寛解。
約1年前より腰痛あり。3か月前の造影MRIにて圧迫骨折と多発する骨融解像あり。
2カ月前より手足の腫れと疼痛、皮膚緊満感出現。体幹四肢にびまん性色素沈着あり。レナリドミドによる維持療法開始になったが症状悪化のため中止。びまん性の関節痛も出現。
関節fat padの針生検では悪性細胞またはアミロイドはなし。
来院日、関節痛あり(6点/10点)。アシクロビル、スタチン、オメプラゾール服用中。
バイタルに異常なし。
両側のMP関節、PIP関節に腫脹圧痛あり。
膝より下に浮腫あり、色素沈着あり、発赤熱感なし。
CRP 54.7、CK正常値、各種抗体(SS-A, SS-B, Sm, RNP, Jo-1, Scl-70, CCP)陰性。
既往歴にGERDあり。家族歴に関節リウマチあり。
ステロイド開始。
5週間後、強い疲労感あり体がなかなか動かない、約3.5kgの体重減少。
関節痛は2/10点になったものの、こわばりや腫脹は依然強い。
黒色便あり、便潜血3+。上部内視鏡と生検で胃前庭部毛細血管拡張症と判明。
下部消化管は良性ポリープのみ。
3か月後、増悪する息切れあり。CTその他でNSIPに一致する所見あり。
またCTで、食道のびまん性拡張あり。
IVIGとボルテゾミブが開始も、5日後症状は悪化。下肢の関節が曲げられず、車いす使用。
その4日後、意識障害出現。言葉を見つけにくい。経口摂取低下。人に対してのみ見当識保たれている。血圧98/63、あらたに眼窩周囲と顔面の腫脹が出現。
Hb 8.1, Plt 88000, 末梢血破砕赤血球あり。BUN86, Cre 4.38, eGFR 14。フィブリノーゲンとはプログロビンは正常値。
尿検査でアルブミン2+、色素顆粒円柱あり、非変形赤血球あり、細胞円柱なし。
problem listを作ってみました。
○比較的急速に進行した筋骨格系の問題
# 四肢の腫脹、皮膚緊満感
# 多関節痛/腫脹、関節可動域制限
# びまん性色素沈着
○急性期
# 血圧低下
# 軽度意識障害
# 急性腎障害(thrombic microangiopathy によるものか)
# 浮腫
○亜急性期
# 息切れ→間質性肺炎
# 貧血→胃前庭部毛細血管拡張症
○慢性期その他
# 多発性骨髄腫寛解状態
# 種々の薬剤投与
# GERD、食道のびまん性拡張
# リウマチ性疾患の家族歴あり
胃前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia GAVE)という疾患を初めて知りました。
その名の通りの疾患で、短期間に貧血が進行し輸血が頻回に必要になることが多いそうです。
内視鏡所見からwatermelon stomachともいうそうです。
下の画像はUpToDateから。確かにスイカに見えますね。
UpToDateによれば、肝硬変や強皮症と関連するらしいです。
本文の記載に従って、色素沈着と多関節痛(炎)を来す疾患について考えましょう。
私が思いついたのはこのくらい。zebraに思えて仕方がないです。
・POEMS 症候群
・アミロイド―シス
・ヘモクロマト―シス
・薬剤
・造影MRIによる腎性全身性線維症
上の3つは検査で否定的ですね。
腎性全身性線維症は、eGFR30以上だとまず発症しないそうです。
造影MRI検査時はeGFR>60なのでまずありえないかなと。
線維化はおもに皮膚ですが、肺、心、神経を侵すこともあるみたいです。
とここまでで行き詰りました。
本文を読むと、骨髄腫に関係する皮膚疾患が何個かあるみたいです。
・強皮症
先行感染、糖尿病、MGUS、多発性骨髄腫との関係性があるそうです。
皮膚所見の分布が非典型的ですが、その他の所見は一致していますね。
GERD、間質性肺炎も説明できます。GAVEについては先述の通りです。
急性腎障害、軽度意識障害は、腎クリーゼで説明できます。高血圧はないですが。
なんで思いつかなかったのでしょうか…。
多関節炎の鑑別をしてしまったことと
多発性骨髄腫との関連を知らなかったことが原因ですね。
UpToDateには
Frank inflammatory arthritis is uncommon in SSc.
Joint pain, immobility and contractures develop as the result of fibrosis around tendons and other periarticular structures.
と書いてあります。
関節炎ではなく、関節痛、可動域制限、拘縮を診るのですね。
palpable and/or audible deep tendon friction rubs(腱がこすれる音)も大事な所見らしいです。
・硬化性粘液水腫(scleromyxedema)
初めて知りました。
粘液水腫性苔癬の一形態で、ほぼ必ずIgG MGUSに合併するみたいです。
重症なものは多発性硬化症によっておこるとのこと。
診断基準は以下の4つです。本例では丘疹がないですね。
・丘疹と皮膚硬化が全身にある
・皮膚生検でムチン沈着、線維芽細胞増殖、線維化がある。
・モノクローナルのγグロブリン増殖
・甲状腺疾患がない
・好酸球性筋膜炎(Shulman症候群)
骨髄腫を含む血液疾患で起こるみたいです。
手足や時に体幹から始まる急速進行の皮膚病変が特徴です。
オレンジの皮様の皮膚拘縮は有名ですね。
血中好酸球数が上昇していないので今回は否定的です。
というわけで、多発性骨髄腫寛解状態の68歳男性が強皮症を発症し、診断の遅れから腎クリーゼになったという症例でした。
~Clinical Pearls~
強皮症の腎クリーゼに注意。BUN, CreだけでなくRBC, Pltも確認。
強皮症の関節所見は、関節痛、可動域制限、拘縮。
GAVEは内視鏡でスイカの皮に見える。肝硬変と強皮症に注意。
骨髄腫と関係のある皮膚疾患:強皮症、硬化性粘液水腫、好酸球性筋膜炎