2020年4月6日月曜日

女性の尿失禁(AIM IN THE CLINIC)


新生活になりました.
このブログでは今まで通り,週1回更新継続を目標に,のんびりやっていきます.

Annals of Internal MedicineのIn the clinicに,女性の尿失禁がまとめられていました.
こういうコモンプロブレムは何回でも学習すべきです.


要点をザクっとまとめます.

・有病率は20歳以上で17.1%,高齢者は30-40%
・若年者で多いのは腹圧性尿失禁(stress UI),年齢が上がると切迫性尿失禁(urge UI)がふえ,高齢者で最も多いのは腹圧性と切迫性の混合(mixed UI).

・切迫性尿失禁:突然排尿したくなる
原因:排尿筋収縮が抑制できない,内因性の排尿筋活動活性化,膀胱・脊髄・大脳皮質レベルでの感覚路障害
・腹圧性尿失禁:努責,運動,くしゃみ,咳嗽などで尿が漏れる
膀胱や尿路の問題 尿路を閉鎖することができない
・混合性尿失禁:切迫性+腹圧性
・尿閉による尿失禁:症状は上記3つと同じだが,自分では気づかない
原因:膀胱収縮の障害.神経疾患,薬剤,直腸内便多量貯留など

・肥満や座っている時間が多いことなどは,修正可能な生活因子
・カフェイン摂取減量は患者によっては効果があるかもしれない。2-4週控えて効果を確認するのが良い。
・トイレにすぐ行ける環境か,失禁による心理的なストレスや抑うつはないかなど社会心理的側面も考慮すべし.
・経膣分娩は尿失禁のリスク因子。
・子宮摘出術は高齢者では尿失禁のリスク因子

・併存疾患や薬剤の影響をみる.疾患の適切なコントロールが尿問題の改善につながることもある.主要なものは以下の通り.

・心不全:体液量過剰による夜間尿増加,利尿薬による多尿,ACE阻害薬による咳嗽
・高血圧:CCBによる浮腫→夜間尿増加,失禁となることも
・喘息・COPD:抗コリン薬による排尿筋収縮障害
・糖尿病:チアゾリジンによる浮腫,SGLT-2阻害薬による尿量増加,浸透圧利尿,膀胱の神経障害による尿閉,骨盤底筋の神経障害
・ビタミンB12:膀胱の知覚低下,運動障害→トイレに間に合わない
・神経痛:ガバペンチンやプレガバリンは末梢浮腫による夜間尿・尿失禁のリスク
・てんかん:高用量の抗てんかん薬は膀胱知覚障害を起こす
・パーキンソン病:プラミペキソールやロピニロールは末梢浮腫を起こす
・認知症:コリンエステラーゼ阻害薬による排尿筋収縮力低下→頻尿,尿失禁
・OSAS:ANP分泌増加による夜間尿と夜間尿切迫

・急性発症の尿失禁は、可逆的要因を検討すべし。薬物、尿路感染、尿閉、神経学的異常、膀胱刺激物質の曝露、せん妄、宿便など。

・尿失禁の病型診断は、3IQ(Incontinence Question)が有用
1.過去3か月で(少量でも)尿もれがあったか。→Yesなら次に進む。
2.過去3か月で、尿が漏れたときはどんな時だったか(複数回答可)
 a. 体を動かしている(せき、くしゃみ、荷物を持ち上げる、運動する)時
 b. 尿意が迫っている/感じているが、トイレまでたどり着けなかった時
 c. 体動時でも尿意時でもない
3. 過去3か月で、尿が漏れたときはどんな時が最も多かったか(1つだけ回答)
 a. 体を動かしている(せき、くしゃみ、荷物を持ち上げる、運動する)時
 b. 尿意が迫っている/感じているが、トイレまでたどり着けなかった時
 c. 体動時でも尿意時でもない
 d. どちらも同じだけある

3-a. 腹圧性尿失禁(優位)
3-b. 切迫性尿失禁(優位)
3-c. 他の原因
3-d. 混合性尿失禁

・治療は生活習慣の改善や理学療法が第一選択
・水分制限は過度に行うべきではない。一度にたくさん飲むのではなく、少量ずつちょくちょく飲むように指導する。
・定期的な排尿を指導する。2-3時間に一回または排尿日誌をつけて管理。
・認知症患者に排尿するかどうか聴くのは推奨されない。排尿したいという膀胱からの感覚が鈍っている可能性がある。定期的にトイレ誘導するのが良い。
・肥満患者では減量が非常に効果的
・利尿薬使用患者では、就寝前の服用は避ける。生活習慣を聞いて内服タイミングを考える。

・腹圧性尿失禁には骨盤底筋訓練±バイオフィードバック
・腹圧性尿失禁に推奨される薬剤はない
・腹圧性尿失禁ないしそれに併存するうつや慢性疼痛については、デュロキセチンの使用を考慮してもよい。
・難治性の場合、ペッサリーなどによる治療や手術も検討

・切迫性尿失禁には膀胱訓練。または決まった時間に排尿する。
・薬剤を使うなら抗ムスカリン薬(オキシブチニン(ポラキス)、ダリフェナシン(ウリトス)、ソリフェナシン(ベシケア)、トルテロジン(デトルシトール)、フェソテロジン(トビエース)など)、またはβ3刺激薬(ミラベグロン(ベタニス))
・抗ムスカリン薬では、口渇、眼圧亢進、便秘、認知機能低下などの副作用に注意
・β3刺激薬では、高血圧、頻尿に注意(ベタニス50mgは1錠181.8円。)
・萎縮性膣炎があれば、局所エストロゲン療法。
・難治性なら神経刺激療法やボツリヌス毒素などの方法もある