2020年4月27日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 2


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


国際的な医学教育のトピックの重要性

 このガイドは、指導者の下で臨床現場の経験から医学生が得る学びについて述べている。このような経験を得る機会は急速に変化しており、より多くの学生、より多くの専門にその機会がある。臨床現場では技術の細分化が急速に進行しており、業務量は多くなっているのに労働時間は短くなっている。学生が臨床チームと接する時間はますます短くなっており、そのチームも分節化されている。これでは臨床で得たものを統合するのは困難である。一方、患者安全のアジェンダにより、ヘルスケアシステムの中で学生がケアを提供するのはますます受け入れがたくなってきている。学生が患者のケアに責任を取るようになる前に能力の質を担保しようとする動きにより,能力に基づく(またはアウトカムに基づく)医学教育(CBME: competence-based/outcome-based medical education)と評価へとカリキュラムが変革されてきた(Harden et al. 1999).同時に,シミュレーションが医学教育の重要な光景となってきている.このようなトレンドにより,臨床現場での経験の重要性を疑問視する者もでてきた.

 学生を訓練し評価するだけでは,学生を有能な医師にするには不十分である.学習の文脈(コンテクスト)も学習内容(コンテンツ)と同じぐらい重要であるからだ.職場学習の専門家の推定によると,臨床家は知識の80%以上を「現場で」獲得する.そうやって獲得される一連のスキルはcapabilityと呼ばれており,competenceとくらべ使い勝手が良いが標準化が困難である(Neve and Hanks 2016).現場での学習は,医学教育において必然的に重要な位置を占める.


実践におけるポイント

・本稿「21世紀の臨床教育」は,教育についての文献ではない.学生が臨床現場で実際の患者から学ぶにあたっての支援について述べている.

・ExBLを推し進めるスキルとは,学生や患者などが危険にさらされないように調整しながら,学生が自分のコンフォートゾーンの外に踏み出す背中を押すものである.

・学生の参加は自然と発生するものではない.学生は,自分たちを歓迎してくれ,しっかりと組織されている場であり,医師が自分の経験を共有してくれるような学習環境には,身震いして参加するものである.

・まとめると,実際の患者からの学びになる臨床現場に支援を受けて参加することで,医学生は,安全で,有能で,思いやりのある医師になるアイデンティティとcapabilityを身に付け,生涯学習を続けることができる.


 能力を獲得するために必要なのは,学習者が心理的安全を感じることである.しかし,過度に安全を感じるようではいけない.学習者は,自分のコンフォートゾーンの外に一歩踏み出すことで学びを得るからである.シミュレーションでの研修環境においては,学習者がバランスの取れた課題と支援を経験できるように心理的安全のレベルを調整するのは比較的簡単である.しかし臨床現場での学習では難しい.患者に対する治療が予測不可能な課題を引き起こし,安全な環境が突然安全でない環境に様変わりしうる(逆もしかり)からである.ExBLは,臨床医が課題と安全のバランスをその場に応じてどのように取れば,学生と患者の相互利益のためになるのかを詳細に明らかにすることで,学生が臨床現場で学習する助けとなる.これは学生にとって,どのようなタイプのカリキュラムであっても,患者や臨床に接するあらゆる時間を最大限活用するために有用である.