2020年3月16日月曜日

困難な状況にいる学習者のためのRDM-pモデル(part 3)



困難な状況にいる学習者に対するRDM-pモデルを解説したThe RDM-p Manualを訳しております.
※原著はA unifying theory of clinical practice: Relationship, Diagnostics, Management and professionalism (RDM-p)

前回(2回目)では,RDM-pモデルを用いてどのように「問題」の診断を行うのかを概観しました.
今回(3回目)は,特定した問題の「原因」は何かを,SKIPEのフレームワークで診断する方法について述べます.長いので途中までです.続きとまとめは次回です.


原因の診断 : SKIPE を通じて

 4 つのパフォーマンス領域のうちどれに問題があるのかを特定したら、その背後にある原因,そしてその原因を存続させてしまっている影響因子を調べる必要がある。 この探索は学習者との話し合いの中でのみ行うことができる。RDM-p モデルは、この探索を行うための構造化された包括的な手法を提供する.それは"SKIPE" フレームワークと呼ばれる.SKIPEはSkills(技術)、Knowledge(知識)、Internal factors(内的要因),Past factors(過去の要因),External Factors(外的要因)の頭文字である.SKIPE は、3 つのパフォーマンス ドメイン (関係性、診断、管理)のいずれかで個人の成長に影響を与え,その基盤となるプロフェッショナリズムにも影響を与える可能性のある一連の原因および影響因子を特定する.

 SKIPEと聞くと,直ちにSkype(オンライン通信アプリ)が連想されるであろうが,これは意図的にそうしている.Skypeは他者とつながり議論を促進するシンプルな手段と謳われている.SKIPEもまさに同様であり,行動と原因を適切に「つなぐ」手段であり,学習者個人と対話する

 SKIPEのフレームワークは、意図的にRDM-pと区別しておく必要がある.これは,指導者が臨床業務で適用しているのと同じ原則に依拠する必要があることを強調するためである.つまり指導者は,まず(RDM-pを用いて)問題を診断し、その後に(SKIPEを用いて)考えられる原因を探さなくてはいけない.


SKIPEの理論的基盤



•まず青に注目する:学習者の能力は、主にの知識と技術(つまり,学習者の姿を実際に見聞きできるもの)の観点から定義される。これらが貧弱であれば、学習者が基本的能力を有している可能性は低くなる。つまり,そもそも能力がなければ、パフォーマンス(赤四角)を良くすることはできない!ところで,学習者は何の能力を身に付ける必要があるのか?答えは,R、D、Mで定義されるパフォーマンスの 3 つの主要領域である。したがって、最初に注目すべきのは、この3つの領域である.

•ゆえに,学習者のパフォーマンスが低い場合,私たちは自然に学習者の知識と技術(青楕円)の強化に焦点を当てる傾向があります.知識と技術を再度身に付け,能力(青い四角)を向上させ、最終的にパフォーマンス(赤四角)が改善することを期待するからである.このことには何の問題もない。研修生が知識や技術を欠いているなら、それらを強化する必要は明らかにある.問題なのは,どうしても知識や技術ばかりに目を向けがちであるということである.真相の多くはまだ他の領域に残されている.

•物語の他の部分は、灰色、黄色、緑の角丸四角(内部、外部、過去の要因)に埋め込まれている。これらは相互に影響し合い,学習者の現在の心の状態(紫四角)に寄与するだけでなく,知識と技術(青楕円形)の発達に潜在的影響を与える.学習者の現在の心の状態は,現在の能力の水準 (青四角) とパフォーマンス(赤四角) の関係を仲介する,刻々と変化する「マインドセット」(紫四角)である。 したがって、包括的または全体的なアプローチを採用することに真剣に取り組むなら、これらの角丸四角の要因を考慮することが不可欠である.

1.内的要因:態度/価値観、性格の特性/スタイル、健康/能力など、個人の中で現在作用する要因である。学習者の態度は、主にプロフェッショナリズムを決定する. ここでの問題は、'p'の証拠を再検討するきっかけになる.(注意:性格についてのアンケートの使用を考えている場合は注意が必要である.アンケートで確かに一般的な傾向はわかるが,その学習者がもがいている特定の状況をつぶさに観察するには解像度が低い可能性がある。この文脈では、そのような一般的な測定法はは信頼できない可能性がある。)

2.過去の要因:個人が職業生活を築く基盤である.初期の影響(育ち、文化的ルーツ、教育的ルーツなど)と最近の影響(臨床実習や病院での経験など)の両方が考慮される。いずれも、個人の思考や行動に支配的または長く続く影響を及ぼす可能性がある。私たちはみな独特の個人的な特性を有しているが,その多くは私たちの生い立ちにおける特定の影響因子から派生するものである。例えば,学習者に完璧主義、慢性的な自信の欠如、「正しいことは正しい」という考えに基づく強い価値観などの特性があることに気付いたとする.これらの特徴は,他者が植え付け深く確立するに至った,思考や生活のパターンにルーツがあることが多い.原因を探索する際には,学習者と協働してこのルーツに触れることが非常に有用である可能性がある.ただしその場合,敏感な扱いが求められる.このような内省的な対話は、学習者にとって重要な「ひらめき」の瞬間につながり、多くの場合、自分の特性のルーツとそれが及ぼす結果を認識することで、その特性の影響を和らげることができる。 

3.外的要因('ならず者’要因):現在個人に作用している要因である.家庭の要因もあれば,職場の要因もある(関係性、資源、期待など)。例えば、2人の小さな子どもを育てる母親でありながら、フルタイムの総合診療専攻を完璧にこなそうとする.あるいは、過重労働の指導医が,「学習速度が遅い」学習者に不満を感じてしまい,関係性を崩壊させてしまうことで,既に脆弱である学習者の自信をさらに損ない、ストレスによる症状(およびパフォーマンスの信頼度低下)を引き起こしてしまう.