2020年3月2日月曜日

困難な状況にいる学習者のためのRDM-pモデル (part 1)


RCGPのTraining the trainerで,Trainee in Difficulty(TID)について学んだことを前々回のブログで紹介しました.

ほかにもTIDについて学んだことがあり,それがRDM-pモデルです.
TIDの何が躓いているポイントで,どうすればよいのかを解明するモデルです.
講義ではさらっと流れてしまったので,詳しくしらべてみました.

原著はこれですね.
A unifying theory of clinical practice: Relationship, Diagnostics, Management and professionalism (RDM-p)
しかし,この論文を読んでも,いまいち理解が進みませんでした.

そこでもっと調べてみると,Dr Ramesh Mehayが,RDM-pモデル生みの親であるTim Norfolkの主催するコースに参加してのまとめ記事がみつかりました.
The RDM-p Manual

どうも,Dr Ramesh MehayがEditorを務めた以下の書籍に付随したweb chapterのようです.本はさっそく購入しました.



というわけで,RDM-pマニュアルを読んだわけですが,これが非常に面白く,目から鱗が落ちまくったので,久しぶりに何回かに分けて訳してみようと思いました.
ざっと調べた範囲では,RDM-pモデルを日本語で紹介した文献は見当たらなかったので,ちょうどいいと思います.
全訳ではなく抄訳です.でもほぼ全訳になるとおもいます.
元記事は上記リンクの通り無料で公開されいるので,気になる方はぜひ図表入りで読んだ下さい.



RDM-p マニュアル

この文書は、RDM-p アプローチを詳細に説明する包括的マニュアルである。 明確さを確保するために意図的に長く書かれている。 読者は最終的に、RDM-pアプローチを実際に適用できるようになることが期待される。

RDM-pモデルは、学習者にどのような支援をすべきかを導く診断フレームワークであり,特に困難な状況にいる学習者(Trainee in difficulty)を支援する際に役立つ.2006年にTim Norfolkによって開発された。 Tim は、既存のモデルではカバーする範囲や構造が十分ではないことを知り、この新しいパフォーマンス評価モデルを開発した。

RDM-pモデルは,RCGPが臨床および教育監督者に,すべての学習者についてこの枠組みに従って報告することを求めるようになった。 12の作業ベースの評価ドメインがTimのモデルにきちんと収まることも大事だが、困難な状況にいる学習者のパフォーマンスのパターンを診断するためのツールとして特別な価値がある。 


なぜこの文書を読む必要があるのか?

多くの人が、学習者がパフォーマンスの問題を抱え始めた瞬間を思い出すことができるだろう。 残念ながら、その時我々の大半がとる行動は,学習者のところに乗り込み、原因について表面的な推測を行い、それらを修正しようと残りのエネルギーを費やすことである.これは根本的に欠陥があり、失敗しやすい方法である.本質を適切にとらえられていないからである.RDM-pアプローチでは、結論に飛びつくのを防ぎ、パフォーマンスに関する問題に対し,やみくもに解決を急ぐのではなく,まず適切に問題を同定するようになる。

この文書を読むべき人:
・困難な状況にいる学習者がいて,前を向いて進むための明確な方法を有していない.
・困難な状況にいる学習者がいて,そのとき何をすべきか分からなかった.
・他の枠組みをためしてみたが,うまくいかなかった.
・困難な状況にいる学習者に定期的に向き合っている者が開発したモデルについて読んでみたい.


では、なぜこのアプローチを学ぶのか?

 困難な状況にいる学習者に対処する方法を提案するモデルは数多く発表されている(CLMDAなど)が、多くのモデルでは,実際に何が起こっているのか(症状)を診断することと,何によって引き起こされたのか(原因)を診断することとの境界が曖昧である.この 2 つは分けて考える必要があり、それこそがRDM-p モデルの特色である。

 RDM-pモデルの優れた点を以下に要約する.

1. このプロセスの肝要な点は、(RDM-pフレームワークを通じて)問題の正確な診断から始まることを担保しているところにある。 正確な診断の後に,(後で説明する SKIPE フレームワークを通じて) 原因を段階的に検索する。 パフォーマンスの評価(RDM-p)を原因/影響因子の評価(SKIPE)と峻別することで,実際のパフォーマンス領域における懸念事項を明瞭かつ有意義に解明することができる.

2. RDM-pにより、少数の人間の発言に対する主観的な判断ではなく、学習者に関する明確な証拠に立脚することができる。 観察された出来事に基づいて(研修生とその周辺の人々から)コメントを収集し評価することが奨励される。ゆえに,他の方法を使って見通しの悪いアプローチを企てるよりも,正しい方向に向かうことができる可能性が高い.他の方法によるテンプレートはおしなべて,通り一遍の課題に立ち向かう「ざっとしており,あらかじめ用意された」ものでしかない.

3. 他のアプローチが考慮する原因の範囲はあまり一貫したものではない。RDM-p アプローチは,SKIPE を用いることで原因のみならず影響因子を考えることができるため,より包括的であり,かつ明確な方法論に基づくものである.

4. 他のモデルの大半は、個々の原因を別々に(それぞれ独立した存在として)考えるという深い欠陥がある。 現実世界では、パフォーマンスの低下は、複数の原因と影響因子が相互作用した結果である.そしてこれこそが,(SKIPEを通じて探求される)RDM-pアプローチの肝である。