2019年12月30日月曜日

特発性細菌性腹膜炎で記憶すべきこと(診断,予防,ピットフォール)


前回に引き続き,SBPについてまとめます.

臨床診断(どうやって疑うか)について.
プライマリケア医として最大の関心ごとの一つです.

腹水+発熱+腹痛なら,SBPの想起は容易ですが,最も頻度の高い臨床症状である発熱であっても,出現するのは最大80%とのことです.
腹痛などの腹腔内感染の所見が全くないこともあるようです.
嘔気嘔吐,下痢,低体温,低血圧,腎機能障害,脳症などで発症することがあります.

初診の腹水貯留は必ず腹水検査を行うというのは基本的なプラクティスだとおもいます.
あわせて,既知の肝硬変,腹水がある患者で,少しでもSBPを見落とさないようにするためにどうすればいいか考えてみました.

発症の契機がわからない脳症で疑う
(以前から肝性脳症があって,排便コントロール不良で発症,とかいう状況では不要だとおもいますが,肝性脳症を起こす切っ掛けとしてSBPを鑑別に入れておく)
原因不明の腎機能障害で疑う(SBPは肝腎症候群を起こす)
低体温,低血圧で疑う(一般的な感染症診断と同様ですね)
・少しでも消化器症状があれば疑う(嘔気嘔吐,下痢など)
消化管出血があれば疑う(SBPが静脈瘤出血の原因になることもある.上部消化管出血は20%でSBPを合併する)
・突然腹水が増えたら疑う

とにかく腹腔穿刺の閾値をさげるべきですね.
いまDICをおこしているとかなければ,血小板が低くてもPTが伸びていても,比較的安全に穿刺できます.血小板輸血などは不要というコンセンサスになっています.


あわせて,予防について.
こちらもプライマリケア医として関心が高いです.

一次性SBPは,消化管出血,PPI使用,腹水中蛋白低値(∵オプソニン活性低下)などが発症リスクです.
まず,上部消化管出血後7日間は,CTRX1g q24h divを行います.
経口摂取可能ならLVFXやCPFXでもいいとあります.

その他,腹水蛋白<1.5g/dlなら1次予防の利益があるかもしれません.
SBP発症後の2次予防はベネフィットがより高そうです.
投薬するなら,ST合剤を1日1錠,またはLVFX 250mg/day or CPFX 400mg/dayです.

ただし,予防については,現状エキスパートオピニオンであるようです.
(PMID: 31304804,23463403など参照)
併存症や予後などを考えながら,その都度判断するほかなさそうですね.