2020年1月6日月曜日
特発性細菌性腹膜炎で記憶すべきこと(腹水検査の解釈)
引き続きSBPについてです.
腹腔穿刺の閾値を下げたほうが良いことは分かりました.
次に知るべきは,腹水検査の解釈の方法です.
腹水白血球500/ul以上または好中球250/ul以上でSBPの診断になります.
グラム染色は陰性でも不思議はありません.
培養を取る際は血液培養ボトルに10ml以上の腹水を入れるようにします.それで感度は8割近くになります.(当然血培も提出します,感度75%程度らしいです).
もし培養が複数陽性になれば,二次性の可能性が極めて強くなります.
好中球250/ul以下でも,培養が陽性になることがあるようです.
これをmonomicrobial nonneutrocytic bacterascites(MMNNB,またはMNB)といいます.
長いので細菌保有腹水(bacterasictes)でいいと思います.
MMNNBやMNBといっても,専門医でない限り通じないでしょうし.
自然軽快する例もあるようですが,SBPに移行する例もあり,臨床的な判断が必要です.
SBPを疑って検査した場合は治療対象とし,初発の腹水などで特にSBPを念頭に置いて検査していないのであれば時間を空けて再検査,でよいと思います.
臨床症状のないMNBのうち,SBPに進行するのは15%である,という疫学が役に立つかもしれないです.
培養の結果が出ておらず,臨床的にSBPが疑わしいけど好中球は250/ul以下,ということしかわかっていない時点では,やはり治療を開始すべきでしょう.
もちろん他疾患の除外は必要です.
上記の培養の感度をみれば,好中球はいるけど培養陰性というケースは容易に想像されます.培養陰性好中球性腹水(culture-negative neutrocytic ascites:CNNA)といいます.
うち1/3で血液培養が陽性になるようです.やはり血培は大事ですね.
CNNAのなかには,単純に培養が出なかった一般的なSBP群の他に,
結核,淋菌,クラミジアなどの感染や,膵炎,腹膜がんなどが混じってきます.
細胞診,腹水アミラーゼ,腹水ADA,抗酸菌培養,抗酸菌塗抹などの提出が必要ですね.
また,誤って腸管を刺すと,好中球<250/ulだけど複数菌が検出される,という結果になることがあります.polymicrobial nonneutrocytic bacteriascites(PMNNB)といいます.腹水蛋白が1g/dl以上あれば,二次性腹膜炎に進展せず自然改善が得られる可能性が高くなるようです.
まとめると
・腹水白血球500/ul以上or好中球250/ul以上ならSBPとして治療
・グラム染色が陰性のSBPは珍しくない
・培養結果未着で好中球250以下でも臨床上疑わしければSBPの治療を開始する
・好中球250以下で培養陽性なら,臨床上疑わしければSBPとして治療.無症状なら経過観察し,時間を空けて再検査
・好中球250以上で培養陰性なら,SBPとして治療しつつ,結核・膵炎・悪性腫瘍の精査
・腸管の誤穿刺で,好中球250以下で複数菌検出という結果になることがある