2023年7月10日月曜日

総合診療医の成長について(レクチャー資料)


年度初めに、専攻医対象に行ったプレゼンテーションの概要について
参照用資料として、簡潔にしたものをこのブログに転記します。


総合診療医は、その地域で起こる様々な健康事象に対応します。
そして、日本の総合診療医は、多様なセッティングで働きます。

総合診療医は、よく出会う健康問題に通暁している一方で、
毎日、今まで出会ったことのない問題に出会います。

では、総合診療医ができることは何でしょうか?

例えば外来で。
  • 慢性心不全、慢性腎障害、慢性肝障害、糖尿病をかかえた中年男性におこるさまざまな健康問題に対応します
  • 寝ているときに再々トイレに行くという高齢女性の訴えに、適切な非薬物的療法を行います
  • 膝が痛くてゴミ出しができないという独り暮らし高齢者の悩みを解決するために複数の手段を想起し対応します
  • 時々胸が痛くなるという高校生の訴えに、適切なマネジメントを行います
  • 急に手が動かなくなったという主訴から甲状腺機能亢進症を診断し、治療のマネジメント行います
  • 2年続く腹痛という主訴から胸椎ヘルニアを診断し、疼痛緩和のために様々な専門家と協働します
  • 「健康」な70歳女性をみて、健康増進の方略を5つ以上提案します
  • 一見認知機能が保たれているように見える80歳女性の冷蔵庫に腐った食物が満載であることに気づき、生活を安定化させるために多職種と協働します。

たとえば訪問診療で。
  • がん・非がん問わず、終末期のケアを提供します
  • 急な発熱に対し、往診をして、病歴と身体診察だけで軽症の憩室炎だと診断し、在宅で治療を完遂します
  • 夜中にSpO2 60%の心不全増悪を起こした患者が、入院をどうしてもしたくないという場合、在宅でできる限りの治療を行い状態を安定化させます。
  • 80歳代の妻は寝たきり、神経因性膀胱、認知症で気ままに家族を支配している、夫が家の切り盛りや介護をすべてしていたが突然前立腺がん末期となりADL急激に低下し血便でている、娘は生活能力ないが在宅サービスの利用を拒否している、という複雑な状況にいる家族に対し、問題を切り分けて整理し、多職種と協働します。

例えば救急で。
  • 熱がない意識障害の患者に対し、バイタルと身体診察から敗血症性ショックと判断し、熱源として髄膜炎を想起し迅速な検査治療を行います
  • 父親と遊んでいたら首が傾いたまま動かなくなったという幼稚園児の診断とマネジメントをします
  • 風呂掃除をしていたら立ち上がれなくなったという高齢救急患者に、速やかに心電図を撮り、心筋梗塞と判断します
  • 寝ていると「動悸」をして不安だという患者の解釈モデルを聴き、適切な対応をします

例えば病棟で。
  • 誤嚥性肺炎の治療を行いながら可逆的な原因を検索し、本人・家族と話し合い今後の生活のプランを立てます。
  • 5か所の医療機関から計20種類の内服薬を処方されている患者に減薬のプランを提示します
  • 1か月続く発熱患者を、成人発症スティル病だと診断します
  • 退院後の生活のために必要な介入を、入院する前から考えだします

ところで、地域におけるコモンディジーズとは何でしょうか。
例1:目も耳も聞こえない元・左官の男性。
人の気配がすると「お茶とミカンを買ってくださいやー」といってお金を差し出すような生活。
家で尿便まみれでうごけなくなっているところを発見され、入院。さて、どうする?
 
例2:統合失調症がある若年女性。
胸痛が心配と受診した。
母と二人暮らしで、2人とも肥満あり。採血するとどちらもHbA1c 10以上の糖尿病。さて、どうする?

このように、未分化な問題が複雑に絡み合っていることこそが、地域におけるコモンディジーズです。

では、総合診療医はどのように成長するのでしょうか。
もっとも大事なこと:「総合診療医の成長は個人では達成できない」
総合診療医は、常にチームで診療を行います。
孤高の天才は、総合診療医には存在しません。

ありとあらゆる経験が、成長につながります。
子育てや介護の経験、躓いたこと、悲しかったこと、すべてがキャリアになります。
いついかなるときも、多様性は私たちの味方です。

総合診療医の学習は一生涯続きます。
肩書、資格、●●専門医…ぶっちゃけどうでもいいです。
どうせ一生勉強するのですから。
患者・地域に必要とされていれば、それでいいでしょう。
私たちの学びの場は、常に開かれています。

早くゴールを目指す必要はありません。そもそもゴールなんてありませんので。
どこまでも終わらない旅路を楽しむ気持ちでいましょう。