2020年2月17日月曜日

Trainee in Difficultyについて


日本プライマリケア連合学会が企画した,英国家庭医療学会(RCGP)指導医を招いての講習会(Training the trainer: TTT)に参加しました.
https://www.rcgp.primary-care.or.jp/

TTTでの学びを文献的に深めるためにいろいろ書いてきました.
今回はTrainee in Difficulty(TID)についてです.
TTTでは,difficult traineeやproblem learnerといった表記ではなく,TIDが使われていました.
学習者自身がdifficultではなく,学習者がいる環境がdifficultであるのだ,と強調するためだと思います.
全ての責めを学習者に帰すことを戒めての表現です.
このあたり,いわゆるdifficult patient encounterと同根だと思います.

スライドに引用されていたBMJの文献が素晴らしかったので,以下それをまとめる形となります.
Steinert Y. The "problem" junior: whose problem is it? BMJ. 2008 Jan 19; 336(7636): 150–153. PMID: 18202068
(リンク先PMCより全文読めます


文献の要点は以下の通り
・いわゆる「問題のある」研修医は,もしかしたら知識,態度,技術のどれかに問題があるために,期待に応えることができないのかもしれない.
・指導者は,問題が指導者にあるのか,学習者にあるのか,システムにあるのか,どこにあるのかを見定めないといけない.
・なにか介入を行うなら,学習者に関する情報を注意深く集めてからにする.
・指導者は,学習者の改善の余地を見出すのと同様に,学習者の強みも見出さなくてはいけない.
・介入の例は以下の通り:見守りとフィードバックを増やす,助言者との時間を作る,毎週の学習会,コア知識のレビュー,診療場面のビデオレビュー,コンサルティング.
・正当な手続きで,公平性を保ち,秘密を保ち,インフォームドコンセントを得るために,指導者は研修医と協働しなくてはいけない.

まずは問題を突き止めなくてはいけません.
何となく「ダメな奴」ではいけないということです.
何が問題なのか?
誰の問題なのか?
解決しなくてはいけない問題なのか?
という問いかけが重要です.

問題の所在が指導者にある,ということがままあります.
つまり,同定した問題に自分がどれだけ寄与してしまっているのかを考えなくてはいけない,ということです.
学習者についてどのような感情を抱いて,どのように対応しているのかを,指導者自身が知る必要があります.

学習者の状態を知ることも当然必要です.
たとえば,生活上のストレスがないのか,うつなどになっていないか,などです.
なによりも,「できない研修医」とラベリングすることそのものが,学習者に多大な負の影響を与えることを認識しておく必要があります.

システムの問題としては,基準や責任が不明確,過度な業務量,対応が困難な患者を担当している,教育内容が一般していない,フィードバックがない,といったものがあります.

問題を突き止めたとして,果たしてそれが本当か,ということを確認しなければいけません.
明確な証拠を集めずに,揣摩臆測で学習者を断罪するなどはあってはならないことです.
様々な状況下で研修医を観察し,同僚と評価が一致しているかを確認します.

ついで介入策を考えることになりますが,介入プログラムを策定する際に学習者本人にかかわってもらうことが不可欠です.欠席裁判をしてはいけないのですね.
また,何をしたかをすべて明示化し,デュープロセスを踏むことが大事です.


以上,ざっと書きましたが,私が心に残った点は以下の通り.

・TIDの裏に健康&家庭問題が隠れている,ということはありそうな話.外来で慢性疾患のコントロールが悪くなった背景に家族の問題があった,という家庭医療あるある話と相通じるところがありそう.

・TIDの問題のありかは学習者,指導医,システム.おそらく問題となるケースではどれにも問題があることが多いのではないか.学習者の問題だけを探究するのではなく,指導者とシステムを意識する必要がある.

・学習者の強みを引き出す,というのは,よく言われていることだがとても大事だと思う.どうしても「あいつはなんてダメな奴なんだ」モードになりがちな中で,意識して強みを見つけるorパラフレーズするのは重要な視点.

・早期から学習者自身を巻き込む,というのは,自分に欠けていた姿勢だなと思う.