2025年6月18日水曜日

BJGP論文斜め読み(2025年5-6月のonline first論文)

 

最近ついついさぼりがちな論文レビュー

重要な論文がたくさん出ていました。


https://bjgp.org/content/early/2025/06/04/BJGP.2025.0004

がん患者の公正な緩和ケア登録に関するシステマティックレビュー。Table 2が重要。自分のセッティングでは、在宅患者や通院患者であれば自分で緩和ケアを行うことが多く、時にホスピスに紹介することになるのですが、困難を自覚した時に多職種での介入にスイッチを切るようにしなくてはと思いました。


https://bjgp.org/content/early/2025/05/28/BJGP.2024.0798

時間外の医療サービス(救急)を受ける要因は、患者側のものが多い(年齢、マルモ、ポリファーマシー、在宅ケアサービスのレベル)。時間内にたくさん診療を提供していれば時間外の受診が減るというわけではない。


https://bjgp.org/content/early/2025/05/28/BJGP.2024.0818

複雑なメンタルヘルス上の問題(CMHD)がある患者のGP受診に関する混合研究。患者のニーズが認識されておらず、不可視化されていることを、説得力を持って示しています。精読する必要があります。


https://bjgp.org/content/early/2025/06/02/BJGP.2024.0579

継続性に関する論文は最近多いですね。GPの継続性の向上が二次医療(病院におけるケア)の断片化を軽減するわけではない、という結果。ケアの統合を図るには別のアプローチが必要そうです。


https://bjgp.org/content/early/2025/05/16/BJGP.2024.0429

プライマリケアセッティングで、抗うつ薬(特にSSRI)が開始後一か月での起立性低血圧と関連するという結果。新規に処方する際に気を付けるべき副作用です。


https://bjgp.org/content/early/2025/05/12/BJGP.2024.0568

プライマリケアにおいて、個人間の継続性が高い場合に、死亡率、入院率、救急外来受診率がわずかだが低下するというシステマティックレビュー


https://bjgp.org/content/early/2025/05/05/BJGP.2024.0538

呼吸困難感を訴える患者を電話で評価する際に、年齢と性別、通話特性(夜間の通話または患者の代わりに誰かが通話)、症状(咳、発熱、完全な文章を話せない、喘鳴)の3つを評価することで有効なトリアージができるという結果。「患者の代わりに誰かが通話する」というのはなるほどなと思いました。



2025年6月11日水曜日

AIMCCケースレポート流し読み

 

AIMCCの5月、6月分を流し読みします。



https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.1256

免疫チェックポイント阻害薬によるsicca syndrome。こういうことがあるというのを知っておくのが大事かと。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.0695

A型解離が造影CTで見えなかったという衝撃の報告。大動脈基部が「チューリップの球根」様になっているのは注意ということでしょうか。心電図同期CTで解離腔が明確にわかったようです。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.1189

肺がんの皮膚転移。過去に一度だけ見たことがあります。路上に往診に行っていた患者さんでした。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.1210

甲状腺機能低下症+鉄欠乏性貧血による心嚢液貯留。ド派手です。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.0960

ニューモシスティス肺炎で高Ca血症が起こることがあるのですね。初めて知りました。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.0939

プレドニン15mg/dで起きたニューモシスティス肺炎。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.0940

今回最も勉強になったケース。肝硬変患者でミエロパチーが起こる。まれな神経合併症で、進行性痙性麻痺を呈する。所見を収めた映像がとても勉強になります。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.1243

つい先日、まさにそっくりのケースに出会いました!レジオネラ症では心臓のブロックが起こりうる、ということを知っておきましょう。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.1294

CMV感染による脾梗塞。CMVは多様なプレゼンテーションを示しますね。


https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/aimcc.2024.1335

持続的な動悸と一時的な左手の筋力低下で入院して、TIAかと思って血管病変の検索目的にCTを撮ったら偶然大動脈解離が見つかったというケース。診断遅延がおこっています。自分ならどの時点で解離を想起できただろうか…。




2025年5月15日木曜日

Q熱とオウム病

 

まだであったことがないが、診療圏でそこそこ発生報告があるので、目の前に来たら疑えるようにしておきたいです。


Q熱

・哺乳類、とくに胎盤・羊水との接触。潜伏期間は3週間。

・多くはインフルエンザ様でself-limiting

・発熱、頭痛、筋痛、咳嗽、関節痛

・まれに市販、髄膜炎、溶血性貧血、心内膜炎、膵炎、精巣副睾丸炎

・CTでは多発するconsolidationを呈することがある

・画像検索で数例CT見ましたが、敗血症性塞栓におもえますね。これも引っ掛けるポイントかと。


「哺乳類の出産に立ち会った3週間後のインフルエンザ様症状、多様な臓器を巻き込むことがあり、CTは多発consolidationを呈することがある」と覚えておきます。



オウム病

・乾燥した糞や羽埃に付着。ゆえに鳥小屋掃除が曝露危険高い 潜伏期間は5-15日

・乾性咳嗽、発熱、頭痛が比較的緩徐に出現

・頭痛は強く、ときに羞明を伴う

・咽頭発赤あり

・脾腫が発症1週間後にでることもある

・Horder's spotという丘疹がまれにみられる。

https://x.com/IUIDfellowship/status/1428154844230135814


「頭痛が強い気管支炎で、鳥小屋掃除(その他鳥との接触、餌やりやペットショップなど)の病歴を聞きに行く」という姿勢が大事なのかもしれません。丘疹は稀なのであまり気にしない方がいいかも。

髄膜炎っぽい呼吸器感染症はレジオネラを想起していましたが、これからはオウム病も想起するようにしたいです。


参考:シュロスバーグの臨床感染症学邦訳第2版




2025年5月3日土曜日

(雑記)一つの研究が一区切りつくとまた次の研究が始まる



とある質的研究(すでにデータは集めていた)の分析と論文執筆が一区切りつきました。

振り返ってみると、データ分析+論文執筆でおよそ一か月半かかっていました。

その前のデータ収集+文字起こしや、先行研究調べなどあるので、1つの論文に3か月くらいかかっているのでしょう。現状年間4本出版のペースですので、計算が合います。


臨床、家庭、その他のことがあり、研究は夜の時間にすすめているので、まあこれくらい時間かかるのは仕方ないことなのかなとは思っています。質的研究はデータの読み込みやコーディングをじっくりする必要があるので、隙間時間に少しずつ進められるものでもないですし。

AI全盛期ですが、自分のやり方は地道な方法です。特別なソフトは使わず、wordとexcelでひたすら読み込み&コーディングです。メモをかきながら進めていきます。こればっかりは、自分の言葉で考えないと意味がないので。


そして、論文執筆がある程度完成したので、そのまま別の質的研究のデータ分析に移っています。これもすでにデータを収集しているものです、完成するまでおよそ一か月半かなとおもいつつ、今回はデータが多いのでもっとかかるかもです。


現状、データはあるが分析できていない質的研究が3本、混合研究が1本、量的研究が1本あります。まずはこれを論文化するのが次の仕事。すべて形にするにはやはり1年以上はかかりそうです。この中で、新たな分析手法を用いるものが2本ありますので、さらに時間はかかりますね。

これからデータを集める研究が1本、これはすでに倫理審査が通っています。

やりたい研究は頭の中にたくさんあるので、以上の研究を進めつつ、頭の中にある研究を実現する機会があれば割り込んであらたな研究を開始する、というのがほぼ確立されたスタイルになっています。


そういえば査読中の原著論文が2本、レビュー論文が1本ありました。

査読の旅からなかなか帰ってこずにもやもやします。

アクセプトされたのになかなか公開されない論文も2本あります。


こうやって書きだすと、自分が今どこにいるのかわかっていいですね。

頑張るぞー。



2025年4月26日土曜日

WONCA講演メモ:韓国のプライマリケアをさらに強化する

 

WONCAで開催されたplanery lectureが非常に示唆に富む内容でしたので、メモ書きで恐縮ですが共有します。

発表者はBelong Cho (Seoul National University)氏です。

論文たくさん出されています。ざっと見る感じ、home-based careの研究が多いですね。プライマリケア研究ど真ん中っていう感じです。



・大統領弾劾と研修医ストから話が始まりました。大変な情勢ですね。

・韓国は住民一人当たり受診回数が最多らしいです。次点が日本

・韓国のプライマリケアはhigh access, low depthだと言い切っている。いまがturning pointだと。すげー。

・care fragmentationが問題で、プライマリケアの多くがsubspecialistによって提供されている。日本と同じですね。

・ACSCによる入院が多い。総合病院は非常に込み合っている。

・costの2割、profitの3.5割が保険外。これでは制度の継続性がない、とのこと。

・海外からの整形ツアーが盛ん。医療者がこのマーケットに取られている。

・高齢化と慢性疾患の増加、high-cost patientの増加。医療費の50%を5%の患者に費やしている。chronic care modelでアウトカムを改善すべき。このあたりも日本と同じ。

・韓国でも、家庭医が効果的で効率的なケアを提供していることが証明されている。(DW shin et al Ann Fam Med 2014.

・ソロプラクティスが多いけど、Integrated Team-based careを進めないと複雑な医療ニーズに対応できない。

・Patient centered medical homeを提案している

・primary-care centered chronic care management pilot with care coordinatorが韓国で始まっているとのこと。care plan developmentのあと、医師またはケアコーディネーターがpatient managementをして、モニターと評価を1年に2回して医者にフィードバック。

・low-value careが現状では多い。outcome-based incentive、team-based care paymentを提案している。

・ヘルスプロモーションにもインセンティブを与えるスキームも提案されている。

・日本でも、チームでhigh-value careして予防に力入れるほうが、診療所や病院の収入は減りますからね。同じような課題に直面しているので、韓国のスキームは参考になります。

・home-based careが最近急激に増えたらしい。政策による影響。これはいいですね。

・韓国はsamsungやkakaoがあるからか、IT、AIを活用していこうという意欲が高いように思います。digital transformationをしていくんだという気概を感じます。

・real-timeで患者情報を集め、personalized decison-makingとpatient engagementをしていく。昨日の講演でも、患者が自分の血糖推移をもとにAIでどんなself-managementをすべきかわかるようにしている、とありました。pastaというツールで、診療報酬もちゃんとついているようです。

・ウエアラブル端末で血糖の推移を予測するらしいです。すげーなーと思う反面、私が普段見ている患者層には適応できないなともおもいます。デジタル格差をうまないのかなと心配になります。

・とおもったら、ちゃんとdisparities in telemedicine during COVID-19にも言及しています。(Qian et al 2022)

・clinician burnout。電子カルテの煩雑な業務にAIを使ってイノベーションしていこうということらしいです。

・Legal and policy form for primary careの重要性を強く主張されていました。

・「法的根拠がなければ、プライマリケアはアイディアに過ぎない。」しびれる発言。

・韓国家庭医学会は法策定のために働きかけているようです。大事ですね。

・super-agingへの対応、cost containment, equitable access to continuous careのために、プライマリケアを法的に担保することが必要とのこと。

・「プライマリケアはfront doorではない、医療のfoundationである。」これもしびれますね。

・"We are at a crossroads. This is not just a tecnical issue, it is a choice about our values."


総じて、国際学会のホスト国が自分たちの医療制度の現状の欠点を客観的に伝えたうえで、今自分たちが何をしており、将来のビジョンを叶えるために今すべきことを主張する、素晴らしい講演でした。

日本も多くの課題を共有しており、私たちが多方面に働きかける必要があると感じました。

また、WONCA全体を通じて、家庭医はhealth equityをめざすのだという主張がなされており、非常に勇気づけられました。(口演でもprimary care for vulnerable populationのテーマが独立して設けられていました)


2025年4月24日木曜日

CCJMのclinical picture流し読み


https://www.ccjm.org/content/92/4/205

PAD患者における下垂による足の発赤増強。ここまで派手なのは別として、足が熱くなるとか、色が変わるという症状でPADを思いつけるようにしたいです。


https://www.ccjm.org/content/92/2/81

水疱を形成するバラ色粃糠疹。皮疹の分布からバラ色粃糠疹であることはすぐわかります。


https://www.ccjm.org/content/91/12/725

第2期梅毒の口腔扁平コンジローマ 


https://www.ccjm.org/content/91/11/657

感染性心内膜炎で鼻先に点状出血が出ることがあるのですね。


https://www.ccjm.org/content/91/10/597

固定薬疹 いつか出あうかもと思いつつ、まだであったことがないです。


https://www.ccjm.org/content/91/10/593

Salt-and-pepper skin pigmentation。塩を振りかけたような色素脱落は強皮症を疑う。


https://www.ccjm.org/content/91/8/463

陰茎にできた局所性尋常性天疱瘡。知らないと梅毒にしか見えない。



2025年4月11日金曜日

EJCRIMケースレポート流し読み

 

ケースレポート流し読みシリーズ(いま名付けました)


https://www.ejcrim.com/index.php/EJCRIM/article/view/5350
反応性関節炎はプライマリ・ケアでも時々であいますが、C. difficileによるものがあるとは知らなかったです。高齢入院患者で遭遇してもおかしくないケース。覚えておこう。


https://www.ejcrim.com/index.php/EJCRIM/article/view/5360

梨状窩瘻による急性化膿性甲状腺炎。膿瘍治療後にエコーで良性の2mmの結節があったから梨状窩瘻を疑い食道造影に進んだとかいていますが、どうしてそれで疑えるのかがよくわからないなと思い、検索して典型的なエコー所見に目を通しました。急性可能性甲状腺炎を自分でマネジメントすることはない(急性期を保存的に加療することは万が一あったとしても、その後専門科コンサルする)と思いますが、知っておくべき病態だとは思います。


https://www.ejcrim.com/index.php/EJCRIM/article/view/5329

プレゼンはベル麻痺だが、じつは肺小細胞癌の乳様突起転移によるものだった、というケース。ベル麻痺で詳しく画像検査することはないので、どうやって気づいたらいいのかよくわかりません。乳様突起が破壊されたCT像を頭に入れておくと、脳梗塞等の鑑別でCTを撮った時に気づける…のかしら。


https://www.ejcrim.com/index.php/EJCRIM/article/view/5314

大腸のMucosal prolapse syndromeによる貧血。こういうのがあると知っておく。


https://www.ejcrim.com/index.php/EJCRIM/article/view/5247

亜鉛過剰による低マグネシウム血症。自分の診療圏の高齢者施設で食思不振患者への亜鉛処方に積極的なところがあるので、そのうち出会うかもしれないなと思います。そこまで高用量ではないのですが、高齢者だと何が起こるかわからないので。


https://www.ejcrim.com/index.php/EJCRIM/article/view/5210

euglycemic DKAでみられたmottling。mottlingはER患者を診るときにはかなり意識しています。適切な初期治療を行えばすぐ消えることもあるので、そういう意味でも重要かなと思っています。