2024年4月30日火曜日

高齢者の転倒予防(JAMA)

 

Colón-Emeric CS, McDermott CL, Lee DS, Berry SD. Risk Assessment and Prevention of Falls in Older Community-Dwelling Adults: A Review. JAMA. 2024;331(16):1397–1406. doi:10.1001/jama.2024.1416


JAMAの最新レビューを概説していきます。


・地域に住む高齢者をみたら、転倒について定期的に尋ねること。しかし、患者の多くは転倒を報告しない。転倒の70%は報告されていない可能性がある。


・歩行速度を評価するのが簡単かも。平らな地面を4mあるくのに5秒以上かかるようなら歩行速度は低下しており、転倒のリスクが高くなる。


・単独の介入は効果が乏しい。いろいろ組み合わせること。

  薬の見直し(ポリファーマシー是正を含む)

  エクササイズ

  起立性低血圧、失禁、足の問題、その他急性/慢性疾患の管理

  視力、聴力、栄養

  家具の交換、敷物の撤去、手すりや歩行補助具など住宅改修

ただ、これだけしても、転倒する患者の数は有意には下がらない。


・転倒リスクの高い人に対する運動は、週3回の頻度で3か月以降の継続が必要


どうも、画一的な介入では転倒の数を優位に減らすことは難しそうです。劇的な介入法はないのですね。

ここに合わせてリスクを考え、とくにリスクが高いと思われる患者層に、上記の介入をしていく、というのが現時点での落としどころだろうと思います。

個人的には、白内障を治療する、外耳道を観察する(耳垢塞栓による難聴を起こさせない)、簡単な運動を指導する、夜間の尿の回数を減らすような非薬物/薬物治療を行う、ハイリスク薬剤をできるだけ減らす、スリッパと敷物はやめてもらう、骨粗鬆症の介入を行う、ということを普段やっていると思います。



フルタイム臨床医+日曜研究者になりました


大学院を卒業し、4月からフルタイム臨床医になりました。

4.5日が小病院で病棟+外来+訪問診療+教育、0.5日が診療所外来です。

忙しいですが、やっぱり臨床は楽しいですね。忙しいですが。


研究もこれまで通りやっていきたいです。

新たな研究も複数始めました。夜の時間や休日に頑張ってやっています。


ブログはできる範囲で細々と更新していきたいです。



2023年9月26日火曜日

今月号のAFM


今月号のAnnals of Family Medicineが、良い論文ばかりだったので、簡単に紹介します。

質的研究が多い号でした。やはり自分の興味関心と合っている研究手法なのだと思います。


Transgender People’s Experiences Sharing Information With Clinicians: A Focus Group–Based Qualitative Study

トランスジェンダーの患者が受診時に自分の情報を医療者に共有するという経験を探った質的研究。

結論にある、"Transgender people often must choose between stigma and potentially suboptimal care."(トランスジェンダーはたいていの場合、スティグマを貼られるのか、最適ではないケアをうけるのかの選択を迫られる)という言葉が重いです。

SOGIアライな診療空間を作らなくてはいけません。いま自分が最もしなくてはならないこと。


Declining Participation in Primary Care Quality Improvement Research: A Qualitative Study

QIプロジェクトに参加しなかった(←ここ大事)診療所に連絡し、どうして参加しなかったのかを聞いた研究。こういう研究とであう喜びがあります。


Acute Gastroenteritis: A Qualitative Study of Parental Motivations, Expectations, and Experiences During Out-of-Hours Primary Care

急性胃腸炎の子どもを時間外に連れてきた親に、受診後3週間以内に電話で連絡を取り、研究に参加してもらったという、質的研究。親がどうして時間外を受診したのかについて調べてます。とても良い研究。さすがAnn Fam Med。


Patient Communication Preferences for Prostate Cancer Screening Discussions: A Scoping Review

前立腺がんスクリーニングに関する患者とのコミュニケーションについてのスコーピングレビュー

2023年7月17日月曜日

Professionally-driven ZPSDとはなにか


Landry JT. Current models of shared decision-making are insufficient: The "Professionally-Driven Zone of Patient or Surrogate Discretion" offers a defensible way forward. Patient Educ Couns. 2023 Jul 8;115:107892. doi: 10.1016/j.pec.2023.107892. Epub ahead of print. PMID: 37454477.


なんだかとても重要そうなレビューがでましたよ。


既存のshared decision makingのモデルでは、誰が患者のために決定を下すかによって、異なる有害閾値が必要であることが認識されていない、患者が要求する治療が医学的に必要でない場合には結局患者に治療を提供しないという選択しかない、という点をうまく説明できなかった、と筆者は述べています。


筆者が提案する"Professionally-Driven Zone of Patient or Surrogate Discretion"は、参加者の役割の範囲を明確に定義し、倫理的に可能な選択肢から選ばれた治療・介入を行うことを説明できる、とのことです。


ざっくりいえば、医療者がありうる選択肢において想定される害について考え、その害が許容できる範囲内で、本人や代理人の希望と、許容できる害とのバランスを考えて意思決定を行う、というものです。正確な表現ではないと思いますが、ひとまず私はそう理解しました。


私自身、SDMについて「メニューを並べて好きなものを選んでね」ではいけない、と思っていたので、とても興味深く論文を読みました。

professionally-driven ZPSD の考え方は、私が普段していることに近いのかもしれません。

もう少し掘り下げて学習してみます。


2023年7月10日月曜日

総合診療医の成長について(レクチャー資料)


年度初めに、専攻医対象に行ったプレゼンテーションの概要について
参照用資料として、簡潔にしたものをこのブログに転記します。


総合診療医は、その地域で起こる様々な健康事象に対応します。
そして、日本の総合診療医は、多様なセッティングで働きます。

総合診療医は、よく出会う健康問題に通暁している一方で、
毎日、今まで出会ったことのない問題に出会います。

では、総合診療医ができることは何でしょうか?

例えば外来で。
  • 慢性心不全、慢性腎障害、慢性肝障害、糖尿病をかかえた中年男性におこるさまざまな健康問題に対応します
  • 寝ているときに再々トイレに行くという高齢女性の訴えに、適切な非薬物的療法を行います
  • 膝が痛くてゴミ出しができないという独り暮らし高齢者の悩みを解決するために複数の手段を想起し対応します
  • 時々胸が痛くなるという高校生の訴えに、適切なマネジメントを行います
  • 急に手が動かなくなったという主訴から甲状腺機能亢進症を診断し、治療のマネジメント行います
  • 2年続く腹痛という主訴から胸椎ヘルニアを診断し、疼痛緩和のために様々な専門家と協働します
  • 「健康」な70歳女性をみて、健康増進の方略を5つ以上提案します
  • 一見認知機能が保たれているように見える80歳女性の冷蔵庫に腐った食物が満載であることに気づき、生活を安定化させるために多職種と協働します。

たとえば訪問診療で。
  • がん・非がん問わず、終末期のケアを提供します
  • 急な発熱に対し、往診をして、病歴と身体診察だけで軽症の憩室炎だと診断し、在宅で治療を完遂します
  • 夜中にSpO2 60%の心不全増悪を起こした患者が、入院をどうしてもしたくないという場合、在宅でできる限りの治療を行い状態を安定化させます。
  • 80歳代の妻は寝たきり、神経因性膀胱、認知症で気ままに家族を支配している、夫が家の切り盛りや介護をすべてしていたが突然前立腺がん末期となりADL急激に低下し血便でている、娘は生活能力ないが在宅サービスの利用を拒否している、という複雑な状況にいる家族に対し、問題を切り分けて整理し、多職種と協働します。

例えば救急で。
  • 熱がない意識障害の患者に対し、バイタルと身体診察から敗血症性ショックと判断し、熱源として髄膜炎を想起し迅速な検査治療を行います
  • 父親と遊んでいたら首が傾いたまま動かなくなったという幼稚園児の診断とマネジメントをします
  • 風呂掃除をしていたら立ち上がれなくなったという高齢救急患者に、速やかに心電図を撮り、心筋梗塞と判断します
  • 寝ていると「動悸」をして不安だという患者の解釈モデルを聴き、適切な対応をします

例えば病棟で。
  • 誤嚥性肺炎の治療を行いながら可逆的な原因を検索し、本人・家族と話し合い今後の生活のプランを立てます。
  • 5か所の医療機関から計20種類の内服薬を処方されている患者に減薬のプランを提示します
  • 1か月続く発熱患者を、成人発症スティル病だと診断します
  • 退院後の生活のために必要な介入を、入院する前から考えだします

ところで、地域におけるコモンディジーズとは何でしょうか。
例1:目も耳も聞こえない元・左官の男性。
人の気配がすると「お茶とミカンを買ってくださいやー」といってお金を差し出すような生活。
家で尿便まみれでうごけなくなっているところを発見され、入院。さて、どうする?
 
例2:統合失調症がある若年女性。
胸痛が心配と受診した。
母と二人暮らしで、2人とも肥満あり。採血するとどちらもHbA1c 10以上の糖尿病。さて、どうする?

このように、未分化な問題が複雑に絡み合っていることこそが、地域におけるコモンディジーズです。

では、総合診療医はどのように成長するのでしょうか。
もっとも大事なこと:「総合診療医の成長は個人では達成できない」
総合診療医は、常にチームで診療を行います。
孤高の天才は、総合診療医には存在しません。

ありとあらゆる経験が、成長につながります。
子育てや介護の経験、躓いたこと、悲しかったこと、すべてがキャリアになります。
いついかなるときも、多様性は私たちの味方です。

総合診療医の学習は一生涯続きます。
肩書、資格、●●専門医…ぶっちゃけどうでもいいです。
どうせ一生勉強するのですから。
患者・地域に必要とされていれば、それでいいでしょう。
私たちの学びの場は、常に開かれています。

早くゴールを目指す必要はありません。そもそもゴールなんてありませんので。
どこまでも終わらない旅路を楽しむ気持ちでいましょう。


2023年6月20日火曜日

忙しいERにおける効率的な臨床推論

 

忙しくて、じっくり考える暇のないER(2次救急で6時間30人を医師一人で回す、入院指示も時間内にすべて出す、くらいの忙しさをイメージしています)では、ある程度思考を自動化して、乗り切っています。


腹痛を例にすると、しょっちゅう作動する自動化思考はこんな感じです。

・本人が強く痛がっているのに所見が大したことない腹痛は、血管由来を疑う

・すべての嘔吐下痢患者で、虫垂炎のフィジカルをとる。特に、嘔気より腹痛が先に来る場合。(虫垂炎に限らず。先日これでカンピロバクタを見つけました)

・全身状態が悪くないのに呼吸数が早い心窩部痛~腹部全体痛は、胸膜痛(感染症、気胸、肺塞栓)を疑う。

・浣腸して排便がでた便秘患者がまだ腹痛を訴えていたら、虚血性腸炎を疑う。

・姿勢を変えるときに痛みが出る慢性腹痛は、脊椎由来を疑う。

・下痢の患者がショックだったら、原因は腸管外にあることが多い。


こういう自分なりのルールに頼って診療しています。ほかにも…

・比較的全身状態がよいのに高熱を呈している高齢者では、パンツ、ズボン、靴下をすべて脱がす。(もちろん、いつでも全身診察すべきなのですが…)

・発熱と感冒症状を訴えるが咽頭所見に乏しい若年患者では、こちらから頭痛の有無を聞く。副鼻腔炎患者が自ら頭痛を報告することは少ない。

・家で熱が高かったので、布団をかぶって震えていたら、汗をかいてすっとして熱が下がった、と話す高齢患者は、敗血症の進行する過程をみている可能性が高い。


こういう自動化思考を言語化して書き出して、その妥当性を問う、ということをすると

診療の質の向上に寄与するかもしれないなと思います。

研修医と一緒に診療すると、言語化が促されるので、いい感じです。



2023年5月29日月曜日

疼痛とサルコペニア/社会的ニーズのスクリーニング/継続性と終末期ケア


Lin T, Huang X, Guo D, Zhao Y, Song Q, Liang R, Jiang T, Tu X, Deng C, Yue J. Pain as a risk factor for incident sarcopenia in community-dwelling older adults: A 1-year prospective cohort study. J Am Geriatr Soc. 2023 Feb;71(2):546-552. doi: 10.1111/jgs.18118. Epub 2022 Nov 4. PMID: 36330882.


疼痛のある高齢者は、サルコペニア発症リスクが有意に高い。

疼痛が強いほど、また疼痛部位が特定されているほど、サルコペニア発症のリスクが有意に蓄積される。


Russell LE, Cohen AJ, Chrzas S, Halladay CW, Kennedy MA, Mitchell K, Moy E, Lehmann LS. Implementing a Social Needs Screening and Referral Program Among Veterans: Assessing Circumstances & Offering Resources for Needs (ACORN). J Gen Intern Med. 2023 May 10:1–8. doi: 10.1007/s11606-023-08181-9. Epub ahead of print. PMID: 37165261; PMCID: PMC10171907.

社会的ニーズのスクリーニング。

半数は一項目以上が陽性。患者の受け入れは良好。

実践上の問題は、スクリーニングされた問題に対し提示されたリソースにアクセスした患者が一人もいなかったことです。

スクリーニングして、じゃあここに連絡してね、はい終わり、というのは、有効に機能しないだろうなと思っています。短期的アウトカムは無理だろうと。

そうじゃなくて、医療者側が患者さんのことを理解し、その結果医療者の関わり方が変わり、互いが互いを大事な存在と認識し、長い時間をかけて状況が変わっていく、というプロセスがうまれることが重要であると思っています。


ElMokhallalati Y, Chapman E, Relton SD, Bennett MI, Ziegler L. Characteristics of good home-based end-of-life care: analysis of 5-year data from a nationwide mortality follow-back survey in England. Br J Gen Pract. 2023 May 25;73(731):e443-e450. doi: 10.3399/BJGP.2022.0315. PMID: 37012076; PMCID: PMC10098834.


最近BJGPは、継続性についての量的研究をたくさん載せている印象があります。

継続性の高い患者で、終末期ケアの家族報告アウトカムが高かったという内容です。